日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC51_29PM2] 火山の熱水系

2014年4月29日(火) 16:15 〜 17:00 312 (3F)

コンビーナ:*藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、鍵山 恒臣(京都大学理学研究科)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:小森 省吾(中央研究院地球科學研究所)

16:15 〜 16:30

[SVC51-07] 箱根山大涌谷火山ガス組成の時間変化

*大場 武1久野 友暉1左合 正和1 (1.東海大学理学部化学科)

キーワード:噴気, CO2, 火山活動, 熱水系

序箱根山は神奈川県の西部に位置する活火山で,カルデラ構造を有し,中央火口丘の山腹には地熱地帯が発達している.中央火口丘を形成するマグマ噴火活動は,約五万年前(久野,1972)に始まり,約三千年前(Kobayashi et al. 1997)まで継続したと考えられているが,最終のマグマ噴火活動から現在に至る期間の長さは,一連の活動継続期間に比べて短く,今後マグマ活動が再開しないとは言えない(町田,1971).約三千年前の噴火時には,中央火口丘神山が山体崩壊し発生した岩屑なだれによって,早川が堰き止められ,芦ノ湖が形成された(大木・袴田,1975).箱根山で有史の噴火記録はないが,カルデラ内ではたびたび火山性地震が群発する.特に,2001年6月から10月にかけて発生した地震活動は活発で,中央火口丘の地下で体積膨張が観測され,山体に地殻変動をもたらした.この地殻変動は,深さ7kmの球状圧力源と,大涌谷および駒ケ岳の浅部における潜在的な開口割れ目により説明された(代田・他,2009).2001年7月には大涌谷に掘削されていたボーリング孔の蒸気放出圧力が異常に増大した(辻内ほか,2003).箱根山のカルデラ内には,15000人が居住し,平均して毎日5万人の観光客が訪れている.箱根山における火山災害を防止を目的とし,神奈川県温泉地学研究所は箱根山で,微小地震活動,地殻変動,および地下水位等の多項目の観測を1961年以来,継続している.火山活動の本質はマグマの脱ガス現象であり,マグマ脱ガスに伴い放出される揮発性成分の一部は,火山ガスの成分を構成する.火山ガスは,火山現象を理解する上で本質的に重要な研究対象と言える.本研究では,大涌谷地熱地帯の火山ガスの繰り返し採取・分析の結果について報告する.火山ガスの採取大涌谷地熱地帯の自然噴気を2地点において2013年5月から繰り返し採取・分析した.ひとつは,駐車場の 南東200mにある噴気で,2001年以来観測を継続している場所であり,定点と呼ぶ.二か所目は,駐車場の北方500mの山麓にある噴気で,近年になり出現した.この噴気を新噴気と呼ぶ.新噴気の周辺では,樹木が枯死している.両者とも,噴気の出口温度は96℃前後であり,水の沸点に近い.定点の噴気は,温泉水の湧出を伴うが,新噴気では,蒸気のみが放出されている.噴気は5MのKOH水溶液を用いたGiggenbachボトルで採取した.結果と考察定点と新噴気の組成は両者とも98%程度が水蒸気で占められ,次いでCO2が1~2%含まれていた.定点の噴気は,H2Sを0.2~0.4%含み,新噴気はその濃度が,0.036~0.050%と約10分の1であった.CO2/H2S比を取ると,定点の噴気については,5月から10月にかけて,単調な減少傾向が見られた.代田(2013)は検知管を用い,新噴気の組成を2012年3月から2013年9月にかけて頻繁に測定し,2013年1月に急激なCO2/H2S比の上昇を見出している.CO2/H2S比は4月から9月にかけて単調に減少した.この傾向は本研究で見出した定点のCO2/H2S比の傾向と一致している.神奈川県温泉地学研究所によると,箱根山では2013年1月から2月にかけて地震の発生回数が急激に増加し,その後低下した.本研究で検出した噴気の組成変化は,代田(2013)が新噴気で見出した変化とともに,箱根山の火山活動に対応した変化であると推測される.箱根山において噴気化学組成の変動は,火山活動の良い指標として用いることができると考えられる.