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[SVC52-07] カメルーン,マヌン湖の溶存CO2量の経時変化
キーワード:マヌン湖, CO2, 湖水爆発, カメルーン, マグマ
序1984年8月15日の深夜23時頃,カメルーン共和国北西部に位置するマヌン湖の北約6kmの住民が大きな音響と地震動を感じた.その後,湖から致死性の気体が発生し,地表から数mの気層を形成し,湖の周囲に広がり37名がその気体の影響で死亡した.致死性の気体は翌日の午前10頃には拡散し安全となった(Sigurdsson et al, 1987).Sigurdssonらは地震動により湖の東部で湖水に向かって崖崩れが発生し,その土砂が深層湖水を撹拌した結果,飽和濃度に達していた溶存CO2が発泡し,CO2ガスを主体とする致死性のガスが湖面から大量に発生したと推定した.このように湖からCO2ガスが噴出する現象は湖水爆発と呼ばれており,1986年には同じくカメルーンのニオス湖で発生した.湖水爆発は溶存CO2濃度が飽和に達し自然に発生する可能性もある.湖水爆発によるガス災害を防ぐため,マヌン湖で2003年に脱ガスパイプが設置され,2009年までに大半のCO2が除去されたが,深層水CO2濃度の低下により脱ガスは停止した.そのため我々は2013年12月には深層水をポンプで強制的に組み上げ脱ガスさせる装置を設置した.CO2量の見積もり湖水に蓄積するCO2量は,湖盆地形と溶存CO2濃度の深度プロファイルから計算される.溶存CO2濃度は以下の二つの方法で観測した.1.MK法(Kusakabe et al, 2000)50mLのディスポシリンジにあらかじめ入れてある5M KOH溶液10mlを湖水約30mlと任意の深度において混合させ,全CO2種(CO2aq, HCO3-, CO3--)を炭酸イオンとして固定し,研究室に持ち帰り酸滴定により全CO2種濃度を求める.この方法は正確で信頼性が高いが採取と分析に手間がかるので,深度プロファイルのデータ点は,離散的にならざるを得ない.2.CTD法 (Kusakabe et al, 2000)いわゆるCTDにより湖水の温度,電気伝導度,pHの深度プロファイルを取得し,以下の手順で全CO2種濃度を推定する. CTDによる観測の利点は,ノイズの少ないほぼ連続に近い深度プロファイルを得られることである.a) 電気伝導度Cを25℃の値(C25)に規格化する.この際に電気伝導度は温度に対し2%の割合で変化すると仮定する.b) 仮の定数としてNaHCO3溶液のモル電気伝導率を用い,C25からHCO3-濃度とイオン強度を求める.c) H+,HCO3-,CO3?の活量係数をDaviesの式で求め,実濃度ベースのH2CO3とHCO3-の酸解離定数を求める.d) 上述の酸解離定数,温度,pHから全CO2濃度を計算する.本研究では上述の1と2の方法で得られた値を以下の手順で整合的に組み合わせる.e) d)で求めた全CO2濃度とMK法で求めた全CO2濃度を各深度で比較し,濃度の差の二乗和を計算する.f) b)とc)では実際の湖水の組成とは異なる組成を仮定している.そこで電気伝導と組成の間の不一致を補正するために,新たな係数kを導入する.kはC25-corr=k*C25で定義される.C25-corrが修正された電気伝導度で,これを用いて何度かa)からe)までの計算を繰り返し,二乗和が最小になるようなkの最適値を見つけた. 結果全CO2濃度プロファイル(Fig. 1)から2011年から2012年にかけて,高濃度20mmol以上の深層水の厚みが増加し,2012年から2013年にかけても,高濃度深層水の厚みがわずかに増えた.マヌン湖は東部から河川が流入し,西部から流出しており,水面から-30mまでの層は河川水の影響が大きいうえに全CO2濃度が低い.そこで湖底直上の深度である-98mから-30mにかけて全CO2濃度を積分したところ,2011年,2012年,2013年の全CO2量はそれぞれ,101,118,119Mmolとなった.これらの値は,Kusakabe et al (2008)が求めた脱ガスパイプ設置直前の値,600Mmolに比べれば圧倒的に少ない.マヌン湖に溶存しているCO2はマントル起源で(Nagao et al., 2010),マグマの寿命が一般的に数万年であることを考えるなら,マヌン湖にはこれからもほぼ永続的にCO2が供給される.マヌン湖におけるCO2の蓄積量は増加傾向にあり,2013年12月からスタートした深層水の組み上げ装置を稼働させ続けると同時に,モニタリングも定期的に行うことが必要である.