日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC52_28AM2] 火山防災の基礎と応用

2014年4月28日(月) 11:00 〜 12:45 416 (4F)

コンビーナ:*萬年 一剛(神奈川県温泉地学研究所)、宝田 晋治(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、藤田 英輔(防災科学技術研究所観測・予測研究領域 地震・火山防災研究ユニット)、佐々木 寿(アジア航測株式会社)、座長:服部 康男((財)電力中央研究所)、常松 佳恵(名古屋大学大学院環境学研究科)

12:15 〜 12:30

[SVC52-09] 災害伝承のツールとしてのジオパーク:島原半島ジオパークの事例

*大野 希一1 (1.島原半島ジオパーク事務局)

キーワード:島原半島世界ジオパーク, 防災教育, ジオサイト, 平成噴火, 島原大変

島原半島に暮らす住民は、繰り返す雲仙火山の噴火によって、繰り返し被災してきている。記録に残る最古の噴火である1663年の寛文噴火では、火口からあふれた熱水に誘発された土石流が麓の集落を襲い、30名余が犠牲になった。1792年の寛政噴火では、火山活動に伴う強い地震によって誘発された眉山溶岩ドームの大崩壊と、崩壊土砂が引き起こした津波により、約15000人が犠牲になった。さらに1990年から約5年間継続した平成噴火では、溶岩ドームの崩落による火砕流および火砕サージにより、44名が犠牲となった。このような災害が繰り返し発生し続けるにもかかわらず、島原半島の人々は活火山・雲仙の近傍に暮らし続けている。活火山の近傍に暮らし続ける以上、火山災害のリスクは常に付きまとう。過去の災害の経験を後世に伝え、防災意識が地域住民の中に根付けば、災害からのリスクは大いに軽減される。しかし噴火間隔が100~200年のオーダーにある雲仙火山は、被災経験の持続的な伝承が難しく、情報の風化はもちろん、誤った情報が伝達される可能性もある。また、必要以上に災害を強調した情報の伝達は、地域住民の不安をあおる結果にもなりかねない。これらの難題を克服する仕組みの一つが、ジオパークである。ジオパークでは、学術的価値を持つ地域資産(露頭や景観を含む)を保全しながらそれらを教育や観光に活用し、持続可能な形で地域を発展させることが要求される。よって、ジオパークで行われる教育活動の中に防災教育を組み込めば、地域の子供たちの防災意識を高め、将来的には地域全体の防災意識の底上げに繋げることができる。今回の発表では、島原半島ジオパークで演者が実施している「ジオパーク学習」の様子を紹介する。島原市内の全小学校6年生および中学1年生は、総合学習の時間の中で1日かけて見学ツアーを行い、ジオパークに認定された地域の見どころを学んでいる。小学6年生が学習するテーマは「平成・寛政噴火とその災害」で、子供たちは火砕サージで被災した小学校の校舎跡や、土石流に埋もれた家屋が保存されている公園の見学を通じて、20数年前に自らが暮らしている町で何が起きたのかを学ぶ。また、山体崩壊がつくり出した地形や、崩壊が起こる前の海岸線の位置を確認しながら、222年前に起きた大災害を体感する。ツアーの中では、災害を引き起こした火山現象の説明だけでなく、湧水を飲んだり、絶景スポットを紹介したり、地域の郷土料理の魅力も説明しながら、なぜ活火山の近くに人々が暮らし続けるかを問いかけ、子供たちにその理由を考えてもらっている。これは「防災教育」ではない。しかし、地域の子供たちが、地域の学術的価値や火山噴火の怖さを正しく理解し、かつ人々が火山の近くに暮らし続ける理由を理解すれば、それはおのずと防災の意識の醸成につながる。同様の取り組みは、現在ジオパークに認定されている他の火山地域(洞爺湖有珠山、伊豆半島、箱根、伊豆大島、阿蘇、霧島、桜島・錦江湾)においても行われつつあり、ジオパークは日本国民の火山防災に対する意識の向上に、確実に寄与していると言える。