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[SVC53-03] 2000年三宅島噴火時のマグマの移動現象の推定
キーワード:ダイク貫入, 2000年三宅島噴火, 震源移動, 地震活動, テクトニクス
1.はじめに ダイク貫入は進行方向がテクトニクスな応力に支配される大規模なマグマ移動現象である.ダイク貫入現象の理解は,火山とテクトニクスの理解に重要である.2000年三宅島噴火では,6月末から地震が山頂から北西岸に移動し,その後神津・新島付近まで震源が移動した.その後も8月末まで三宅島北西海域で多くの地震が発生し,大規模なダイク貫入が発生したと考えられている.ダイク貫入は,ダイク先端で応力が集中して地震が発生するため,震源移動からマグマの移動が観測できる.つまり,ダイク貫入時の震源分布はマグマの移動に関する情報が得られる重要な手がかりである.本研究は,これまで全体の地震活動が必ずしも詳細に解明されていなかった2000年三宅島噴火活動時の震源分布を精度良く再決定し,それに基づき2000年三宅島噴火に伴う大規模なダイク貫入現象の理解を目指した.2.解析手法 これまでの解析では,震源域から遠く離れた島嶼部の観測点のデータを用いて震源が推定されていた.7月2日以降は,震源域直上に海底地震計が設置され,そのデータを用いた解析も行われているが,一部の期間だけにとどまっている.そのため,このときの地震活動の全体像が明らかでなかった.本研究では,海底地震計のデータを有し,高精度に震源が推定できる地震を「参照地震」とし,海底地震計が設置されていない時期も含め地震活動度の高かった2000年6月26日から8月31日までの活動全体のできるだけ多くの地震の震源を,参照地震との相対位置で推定するという手法を用いて再決定した.通常のこのような場合にはDouble Difference 法が良く用いられるが,この方法ではいくつかの不都合な点が明らかになったため,本研究では以下のような改良を行い,解析した.(1)震源精度の高い参照地震の震源を極力動かさないという拘束条件を付けて,参照地震とその他の地震の震源を同時に再決定するように改良した.その際,波形相関を用いた精度の高い初動時間差も利用した.(2)公開されているDouble Difference法や,これを用いた多くの先行研究では,震源決定の際の速度を成層構造で与えている.これをそのまま利用すると,速度構造の境界で,見かけ上の震源の集中が現れた.この影響を取り除くため,深さ方向に連続な速度構造を利用できるようにプログラムを改良した.3.結果と考察この解析により,3000個の参照地震を用いて,約3万個の地震の震源を再決定した.得られた震源分布には以下の特徴が見られる.(1)地震活動は,震源が三宅島からその北西海域に大きく移動する活動初期(7月1日まで)と,それ以降の,多くの地震が約2か月間継続して海域で発生する主活動期に分けられる.(2)活動初期では,地震はいくつかのクラスターに分かれてバースト的に活動した.三宅島に最も近いクラスターからクラスターごとに時間差を持って北西方向に震源が移動する.三宅島に最も近いクラスターは,それ以外のものと震源の配列方向が異なる.また,このクラスターは活動初期以降には地震がほとんど発生していない.(3)主活動期は,ほぼ鉛直の面上(主活動域)で発生している.面の走向は広域応力場の主圧軸方向とほぼ一致している.この期間は,地震が領域の色々な場所でバースト的に発生した.1つのバーストは数時間から半日程度の活動を行い,震源が深部から浅部に移動する活動が多く見られた.また,震源の深さ断面を見ると,震源が分布するほぼ鉛直の断面は,構造境界の存在が示唆される深さ12㎞付近で鉛直から少し屈曲することが新たに分かった.(4)主活動期後半になると,主活動域の両端で,主活動域と震源の配列方向が異なる地震活動が高まった.この時の発震機構解は,広域応力場から期待されるものと一致し,節面を震源分布方向に持つ横ずれ断層であった.主活動域の大規模なダイクを形成したマグマが,三宅島から水平方向に供給されたか,直下の深部から供給されたかについてはこれまで定説がなかった.本研究は,精度の良い震源分布から,上記に挙げた地震活動の特徴を見出した.さらに,他の観測事実も考慮すると,主活動域のダイクは三宅島のマグマ供給系と独立して存在し,ダイク直下の深部から上昇してきたと考えるほうがより妥当であることが明らかになった.これは,大規模なダイクが必ずしもマグマの水平方向に移動してできるのではなく,深部にある既存のマグマ溜りから上昇し,ダイクを形成する例もあることを示している.【謝辞】解析には,気象庁,防災科技研,東京都,海上保安庁,海洋研究開発機構のデータを利用した.関係機関の方々に謝意を表します.