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[SVC54-03] 北海道中央部第四紀大雪火山群の火山地質学的および岩石学的研究 －噴出率の長期時間変化とマグマの変遷について－
キーワード：火山, 長期噴出率, 形成史, 大雪, 地質と岩石, マグマ変遷
大雪火山群は、千島弧の最南端に位置する大雪-十勝火山列の北部を構成し、1 Ma以降に活動した安山岩質の成層火山および溶岩ドーム群を形成してきた。本火山群の全域に及ぶ地質学的研究は国府谷ら(1966)による図幅調査やNEDO（1990）によるK-Ar年代調査についての報告があるが，いずれも古い研究であり，最新の火山学の概念を用いた研究が必要である。我々は，大雪火山群全域の火山地質層序の再検討を行い、さらに噴出物の岩石学的特徴および産業技術総合研究所において新たに7試料の試料のK－Ar年代を明らかにした。その結果、活動の途中で長期の活動休止期が存在し、その後にマグマタイプが大きく変化したことが明らかになった。本火山群の活動は活動様式，活動時期，噴出中心，岩石学的特徴から4つの活動期に区分される。ステージ１(1.0～0.75 Ma)では、安山岩質溶岩からなる平坦面状の地形で特徴づけられる、複数の火山体が形成された。これらの火山体は南北方向に配列している。噴出量は約26 km3 (DRE換算，以下略)と見積もられる。ステージ２は、下位のステージ２-１(0.6 Ma)と上位のステージ２-２ (0.35～0.05 Ma)の2つに細分できる。ステージ２-１の噴出物は、火山群中央部にわずかに分布する溶岩流であり、分布が限られているため，その詳細な規模や構造については不明である。一方、ステージ２-２は，噴出中心と活動様式の違いで西部グループと中央グループにさらに細分される。西部グループでは，比較的大規模な成層火山が火山群の北西部に形成された。中央グループは火山群の北～北東部に複数の噴出中心が分布し、小型溶岩ドームを形成するとともに溶岩流を噴出した。ステージ２の総噴出量は23 km3と見積もられる．ステージ３（約３万年前）は、大雪火山群では例外的な爆発的な噴火で特徴づけられる。大規模な火砕噴火によって、噴煙柱形成と火砕流の流出が起こった。降下火砕物は山体東部に分布し、降下火山灰は180 km離れた北海道東部で確認されている。噴出した火砕流は、北東・南西方向の深い谷に沿って流下し、現在では溶結凝灰岩として露出している。これらの活動によって，直径2 kmの御鉢平カルデラを形成した。噴出量は約13 km3と見積もられる。ステージ４（約３万年前～現在）では，主な噴出中心が大雪火山群の南西部に移動し，溶岩ドームや成層火山を形成した。旭岳はステージ４の中で最も大型かつ最新の火砕丘であり、その山麓から流出した複数の溶岩流が西麓に広く分布している。旭岳には西方に開口した爆裂火口が形成され、そこでは現在でも噴気活動が活発である。このステージでは，御鉢平カルデラ東部の山腹から流走距離が約6 kmのミクラ沢溶岩が流出した。ステージ４の噴出量は約10 km3と見積もられる．各ステージの噴出量およびK-Ar年代データを基に，大雪火山群の階段図を新たに作成した。各ステージの噴出率は，ステージ１は>0.07 km3/ky，ステージ２-１は>0.01 km3/ky，ステージ２-２は>0.06 km3/ky，ステージ３は>0.33 km3/ky，ステージ４は>0.33 km3/kyとなった．階段図からは、0.7-0.4 Maの活動が非常に低調であることが分かり、0.54-0.40 MaのK-Ar年代を示す噴出物は認められなかった。つまり、本火山群においては、0.7-0.4 Maの間は小規模な活動があったかもしれないが、長い休止期であった可能性がある。また、0.4 Ma以降は噴出率が増え，ステージ３で発生した約３万年前の大規模火砕流噴火において噴出率が最大に達し、その後のステージ４でも高い噴出率を維持しているようである。大雪火山群噴出物の岩石学的性質は、ステージ間で区別できるが、上記の噴出率の変化に対応して、特にステージ１とそれ以降で大きく変化している。本火山群の岩石は，斑晶として斜長石，単斜輝石，斜方輝石および鉄チタン酸化物を含み，一部の岩石では少量のカンラン石，石英斑晶を含む安山岩～デイサイトであり、しばしば苦鉄質包有物を含む。ステージ１の岩石は斑晶として角閃石を含まないが，ステージ２および３では0.3～5％程度の角閃石斑晶を含むようになる。その後，ステージ４では角閃石を含む岩石が極端に少なくなる。これら岩石の全岩SiO2量は母岩では56.4-69.1 wt. %，苦鉄質包有物では52.7-57.4 wt. %であり、中カリウム系列のカルクアルカリ系列に分類できる。ステージ１の岩石は、母岩では高いZr含有量を持つことから、他のステージの母岩と明瞭に区別できる。しかしながら、苦鉄質包有物のZr量はステージ間では区別できない。一方、ステージ２とステージ３・４で比較すると、SiO2-K2O図やSiO2-Rb図において，母岩は珪長質側で発散する異なるトレンドを示す。これらの0.7?0.4 Maの噴出年代において火山活動が低調になったこと、また、その年代を挟んで特に珪長質なマグマが大きく変化したことは、島弧会合部でのテクトニクスの変化を反映していると考えられる。