日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC54_1AM1] 火山・火成活動とその長期予測

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 411 (4F)

コンビーナ:*及川 輝樹(独)産業技術総合研究所 地質情報研究部門)、三浦 大助(財団法人電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、下司 信夫(産業技術総合研究所 地質情報研究部門)、石塚 吉浩(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、座長:安井 真也(日本大学文理学部)、吉本 充宏(北海道大学大学院理学研究院)

10:00 〜 10:15

[SVC54-05] H2Oに飽和した島孤ソレアイトマグマの結晶分化作用:伊豆大島火山における事例研究

*浜田 盛久1岡山 悠子2金子 隆之3安田 敦3藤井 敏嗣4 (1.海洋研究開発機構、2.日本科学未来館、3.東京大学地震研究所、4.環境防災総合政策研究機構)

キーワード:島孤ソレアイト, 火山フロント, Caに富む斜長石, 伊豆大島火山

はじめに:島弧マグマに含まれる数重量%のH2Oは,マグマの発生・分化・噴火過程に大きく影響を及ぼすため,その量や挙動を制約することは重要である.本研究では,伊豆弧の火山フロント上に位置する伊豆大島火山から噴出する島弧ソレアイトを例として,火山岩の化学組成と含水マグマ融解実験の既報データを組み合わせることにより,マグマの分化条件(特にH2O量)について議論する.伊豆大島火山の液組成のバリエーション:我々は,伊豆大島火山の火山岩の化学組成のデータの中から,液組成を代表すると考えられる無斑晶質火山岩68個のデータを選び出した.火山岩は,液相濃集元素の濃度比の違いから,K/Zr比の低い火山岩(K/Zr<60)とK/Zr比の高い火山岩(K/Zr≥60)の2種類に分類される.これらの2種類の火山岩は,同一の初生マグマからの結晶分化作用によって導くことはできないため,起源マントルが異なるか,またはマントルの部分融解度の違いによって生じたのであろう.本発表ではK/Zrの高い(K/Zr≥60)噴出物のみに焦点を当て,同一の親マグマから結晶分化作用によって導かれた火山岩の組成バリエーションの起源について検討する. K/Zrの高い火山岩は,高Al/Siトレンドと低Al/Siトレンドという2種類のトレンド,およびそれらのトレンドに挟まれた中間的な組成バリエーションを示す.このことから液は,高Al/Siトレンド上の液と低Al/Siトレンド上の液の混合物であるか,高Al/Siトレンドを導く結晶分化作用と低Al/Siトレンドを導く結晶分化作用との中間的な条件下で導かれたか,のいずれかであろうと考えられる.Hamada and Fujii (2008, Contrib. Mineral. Petrol.)による実験的研究によれば,高Al/Siトレンドは〜3 wt%H2Oの未分化な液から,低Al/Siトレンドはほぼ無水の未分化な液から,それぞれ結晶分化作用により導くことができる. 島弧ソレアイトマグマの含水融解実験:島弧ソレアイトマグマは,Caに富む斜長石(An≥90,ただしリムはAn75)を斑晶にもつことが特徴として挙げられる.Hamada and Fujii (2007, Geochem. J.)は,伊豆大島火山の比較的未分化な2種類のマグマ(MA43とMA44,MgO〜5 wt %)の含水融解実験(1〜6 wt % H2O)を250 MPaで行い,晶出する斜長石の組成に及ぼすメルトの組成と含水量の効果を調べた.MA43は高Al/Siトレンド上の比較的未分化な液組成,MA44は低Al/Siトレンド上の比較的未分化な液組成を代表している.MA43試料を融解実験した結果,1〜6 wt % H2Oの条件下で斜長石がリキダス相であり,斜長石の組成は,ぼぼ無水の条件下では〜An80であったが,含水量の増加に伴ってCaに富み,メルトの含水量≥3 wt %では〜An90であった.MA44試料を融解実験した結果,低含水量(≤2 wt %)下では斜長石がリキダス相であったが,さらに含水量が増加すると単斜輝石がリキダス相として晶出した.斜長石の組成は,ほぼ無水の条件下では〜An70であり,含水量の増加に伴ってCaに富むが,メルトの含水量〜4 wt % H2Oで〜An80に留まった.すなわち,Caに富む斜長石(An≥90)は,高Al/Siトレンド上の液(MA43)からは含水量≥3 wt%で晶出できるが,低Al/Siトレンド上の液(MA44)からは含水量に関わらず晶出できない.Caに乏しい斜長石リム(An〜75)は,高Al/Siトレンド上の液からは晶出できないが,低Al/Siトレンド上の液からは晶出できる.結論:伊豆大島火山の火山岩は,高Al/Siトレンドと低Al/Siトレンド,およびそれらのトレンドに挟まれた中間的な組成バリエーションを示す.高Al/Siトレンドは〜3 wt % H2Oを含む未分化な液が,低Al/Siトレンドはほぼ無水の未分化な液が,それぞれ結晶分化作用を行うことによって導くことが可能である.我々は,伊豆大島火山の直下で,少なくとも地下4 kmの深度にあるマグマ溜まり(飽和含水量〜3 wt %)から地表付近(ほぼ無水メルト)に至る深度においてメルトはH2Oに飽和し,深度に応じて飽和含水量の異なる条件下での結晶分化作用が同時進行していると考える.このようなH2Oに飽和したマグマのpolybaric crystallizationは,島弧ソレアイトマグマの普遍的な特徴であろう.