日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC54_1AM1] 火山・火成活動とその長期予測

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 411 (4F)

コンビーナ:*及川 輝樹(独)産業技術総合研究所 地質情報研究部門)、三浦 大助(財団法人電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、下司 信夫(産業技術総合研究所 地質情報研究部門)、石塚 吉浩(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、座長:安井 真也(日本大学文理学部)、吉本 充宏(北海道大学大学院理学研究院)

10:15 〜 10:30

[SVC54-P11_PG] 吾妻火山,後カルデラ活動期における噴火史 -カルデラ内噴出物と吾妻浄土平ボーリングコアの対比結果-

ポスター講演3分口頭発表枠

*尾崎 守1藤縄 明彦2 (1.茨城大・院・理工、2.茨城大・理)

キーワード:吾妻火山, 浄土平, 噴火史, ボーリングコア, 層序

○序論
 吾妻火山は福島-山形県境に位置する第四紀の成層火山である.最近7千年間の噴火は,東吾妻火山のカルデラ周辺,一切経山北部から浄土平の南まで北西-南東方向に伸びた長さ3km,幅1kmの範囲で発生し,降下火砕物を主体とする(山元,2005).カルデラのほぼ中央に位置する約6千年前から千年間継続した吾妻小富士の活動では,溶岩の流出も発生した(山元,2005).
 火山噴火予知連絡会火山活動評価検討会が中長期的に監視を強化すべきとした全国47火山に対し,2009年,気象庁により,深度100mの調査孔掘削によるボーリングコア採取と各種検層が行われた.吾妻火山もそのうちの1火山である.今回,吾妻火山ボーリングコアとカルデラ内に堆積する噴出物との岩相対比結果に基づき,カルデラ内における噴火史を構築したので報告する.
○ボーリングコアの層序と岩相
 ボーリングコア掘削地点は吾妻小富士の北西約500mに位置する.本コアにおいては,採取直後に記載され,層序の概要はすでに報告済みである(火山噴火予知連絡会コア解析グループ,2011).このうち深度11.20~1.50mから採取された安山岩質火山岩塊・火山礫層は,吾妻小富士火山噴出物とされる.
 対比に用いたのは,深度100.55m~81.07mの安山岩溶岩3試料(下部から順にNo.19~17)と,深度79.90m~14.20mの溶結した凝灰火山角礫岩・火山礫凝灰岩4試料(No.13~10)である.このうち安山岩溶岩(19~17)は,暗灰色を呈し,2~3mm程度の斜長石斑晶が目立ち,稀に包有物を含む.溶結した凝灰火山角礫岩・火山礫凝灰岩(13~10)には,灰色基質中に暗灰色の強く溶結し,レンズ状に引き伸ばされた火山岩塊,火山礫が包有される.
○露頭記載
 今回新たに,東吾妻火山のカルデラ内の露頭において,溶岩流3層,火砕流1層を確認した.赤色立体地図(アジア航測株式会社作成)や地形観察から,いずれも吾妻小富士溶岩流(尾崎・藤縄,2013)よりも下位と推定できる.
 溶岩流1は,赤色立体地図や地形観察では確認されないユニットで,林道沿い標高430mの地点に一か所のみ,露出する.露出層厚は約5mである.岩質は緻密で,暗灰色を呈し,2~3mm程度の斜長石がよく目立つ.稀に包有物を含む.
 火砕流堆積物は,国道126号線沿いの標高470m付近にて断続的に露出する.露出層厚は最大でも約2.5mである.露頭の上部は,大礫を含む未固結の崖錐堆積物により被覆されるが,境界部は確認できていない.弱溶結した明灰色の基質中に,暗灰色で扁平化した石質岩片を含む.
 溶岩流2は,厚い台地状の地形を成し,浄土平爆裂カルデラ(藤縄・鴨志田,1999)内に広範に分布する.地形判読から,火砕流堆積物の上位と判断できる.林道沿い標高660mの地点では,層厚10m以上で柱状節理が発達する露頭を確認した.同地点では,鴨志田(1991MS)において,吾妻小富士溶岩流に直接被覆されているのが確認されている.緻密で灰色を呈し,輝石が容易に識別できる.
 溶岩流3は,カルデラ内南部に堆積・分布し,良く発泡しており,赤灰色を呈する.地形的に溶岩流2の上位にあたり,さらに吾妻小富士溶岩流によって被覆されている.3~5のフローユニットから成り,舌状地形や溶岩堤防も,不明瞭ではあるが識別できる.
○岩相の対比
 コアの安山岩溶岩(19~17)と溶岩流1はいずれも暗灰色を呈し,2~3mm程度の斜長石斑晶が目立つ点,包有物を含む点で類似する.一方,溶岩流2や3とは岩相・岩質を異にする.コアの溶結した凝灰火山角礫岩・火山礫凝灰岩(13~10)と火砕流堆積物は,溶結度こそやや異なるものの,灰色基質中に暗灰色石質岩片を包有する点で類似する.溶岩流2・3と類似した溶岩は,コア中には確認できない.この理由として,①コア掘削地点にこれらの溶岩が堆積・分布していなかった,②コア掘削深度よりもさらに下位の噴出物であった,の二つの可能性が考えられる.しかし,露頭では,溶岩流2は,5-6千年前に噴出した吾妻小富士溶岩流に直接被覆される.また,溶岩流3は,不明瞭ではあるが表面微地形が確認され,こちらも吾妻小富士溶岩流により被覆されている.以上から溶岩流2,3が溶岩流1より上位であることは確実で,②の可能性は否定される.
○対比に基づく噴火史
 コアで確認された溶結火砕岩層は約20mと厚いため,大規模な火砕噴火に由来する可能性が高い.そのような噴火が発生した場合,給源には凹地形がしばしば残される.地形から判断すると,給源としては浄土平爆裂カルデラが有力である.
 溶岩流1(コア19~17)は,溶結火砕岩(コア13~10)よりも下位のため,カルデラ形成以前の噴出物であることになる.
 溶岩流2や3は火砕流堆積物よりも地形的に上位のため,これらはカルデラ形成後に噴出したものと考えられる.