10:15 〜 10:30
[SVC54-P12_PG] 草津白根火山殺生溶岩の斜長石斑晶の粒径分布とシンプレクタイト組織
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:溶岩, 結晶サイズ分布, 噴火, 安山岩, 活火山, シンプレクタイト組織
草津白根火山は、群馬県の北西部と長野県の県境に位置する活火山である。約57万年前から活動を続け、溶岩流・火砕流堆積物などからなる (早川・由井,1989)。殺生溶岩は同火山を構成する溶岩流の一つで、約3000年前の噴火の際に本白根火砕丘付近から東側に流下したと推定されている (宇都ほか,1983)。溶岩は北部と南部に分岐し、最長4.8㎞、最大幅0.9㎞で溶岩末端崖の高さは50~100m前後であり、これらの数値から推定すると、流出面積は6.27㎞2である。SiO2の含有量は60~63wt%の安山岩溶岩である (高橋ほか, 2010; 上木・寺田, 2012)。
斑晶鉱物の化学組成や形態には、形成された時の情報が保持されているため (津根・寅丸,2004など)、溶岩内に含まれる斑晶鉱物の化学分析や形態の解析を行うことで、噴火前のマグマだまり内がどんな環境だったのか推定することができる。一方、微斑晶や石基は噴火時に結晶化するとされ、過冷却度や冷却過程により形態や組成が変化する (鈴木,2006など)。斜長石斑晶に着目して粒径の解析や化学組成の分析を行うことで、マグマだまりの化学的不均質や冷却速度の描像を行った。一枚の溶岩流に着目することで斑晶が形成された時のマグマだまり内の環境の多様性を解明できるという利点がある。本研究では、草津白根火山殺生溶岩の上流から下流まで、6ヶ所の異なる地点から試料を採取し、組織の観察を行った。さらに、鉱物モードおよび、斜長石斑晶の粒径分布とアスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)の推定を行った。また、EPMAおよびSEMを用いて斑晶鉱物の化学組成の分析を行った。
殺生溶岩に含まれる斑晶鉱物は、斜長石+単斜輝石+斜方輝石+磁鉄鉱±かんらん石であり、石基はガラス質である。石基に含まれる斜長石斑晶の長軸の長さは0.04~4.9㎜と多様な大きさを示す。斜長石斑晶・微斑晶は、長軸の長さが短いものほどアスペクト比が大きい値を示し、針状の形を示す。また、一枚の溶岩流でも、粗粒な斑晶に富む箇所と細粒な斑晶に富む箇所が存在する。一方、斑晶モードは、石基54.2~59.0%、斜長石33.4~38.1%、磁鉄鉱2.1~4.2%、輝石3.0~6.4%の幅となり溶岩流内では均質であった。
SEMおよびEPMAを用いて化学組成の解析を行った結果、斜長石斑晶の構造としては、正累帯構造、逆累帯構造、振動累帯構造、局所的にAn#の値が違うパッチ状累帯構造、同心円状の汚濁帯累帯構造の5種類が観察された。単一のサンプル内で5種類全て見つかったもの、振動、パッチ状、汚濁帯の3種類しか見つかっていないものが存在した。斜長石斑晶は、An#55~84と一枚の溶岩流内でも幅広い組成を示した。希に発見されるかんらん石は母岩の安山岩質溶岩とは非平衡である高いMg#(~83)を示す。
複数のサンプルから、opx-magnetiteシンプレクタイトが確認できた。直径は2~4㎜で楕円形の形を示し、中心には、50~575μm程度の磁鉄鉱が斑点状や縞模様の形で集中し、磁鉄鉱を覆う形で直径75~975μm程度の細粒の斜方輝石が塊状で分布していた。斜方輝石は、屈折率やバイレフリンゼンスが低く、同じ薄片に含まれる通常の斜方輝石斑晶とは鏡下で大きく異なる特徴を示す。外縁部には10~675μmの様々な大きさの斜長石が付着していた。このような構造はかんらん石の急激な酸化によって生じると推定されており (Goode, 1974など)、殺生溶岩の安山岩マグマの形成中に、急激に酸素雰囲気が上昇するイベントが存在していたことを示唆する。
本研究の結果、一度の噴出イベントで流出した溶岩流内では、斑晶量は、すべての地点で均質であり、最終的な到達温度は均質であったことが推定された。一方、溶岩流内でも、斜長石のサイズや化学組成にいくつかの種類があることが分かった。殺生溶岩をもたらしたマグマだまり内部での結晶化の速度、すなわち冷却速度が多様性を持つことが示唆される。また、opx-magnetiteシンプレクタイトが存在していたことから、草津白根山の安山岩溶岩の生成プロセスにおいて急激な酸化イベントが起きていたことが示された。
参考文献
早川・由井 (1989) 第四紀研究, 28, 1-17
宇都ほか (1983) 草津白根火山地質図, 地質調査所
高橋ほか (2009) 日本大学文理学部自然科学研究所 研究紀要 No.45 (2010) 205-254
上木・寺田 (2012) 火山 第57巻(2012) 第4号 235-251
津根・寅丸 (2004)火山 第49巻(2004) 第5号 249-266
鈴木 (2006) 火山 第51巻(2006) 第6号 373-391
Goode (1974) Nature, vol. 248, pp.500-501
斑晶鉱物の化学組成や形態には、形成された時の情報が保持されているため (津根・寅丸,2004など)、溶岩内に含まれる斑晶鉱物の化学分析や形態の解析を行うことで、噴火前のマグマだまり内がどんな環境だったのか推定することができる。一方、微斑晶や石基は噴火時に結晶化するとされ、過冷却度や冷却過程により形態や組成が変化する (鈴木,2006など)。斜長石斑晶に着目して粒径の解析や化学組成の分析を行うことで、マグマだまりの化学的不均質や冷却速度の描像を行った。一枚の溶岩流に着目することで斑晶が形成された時のマグマだまり内の環境の多様性を解明できるという利点がある。本研究では、草津白根火山殺生溶岩の上流から下流まで、6ヶ所の異なる地点から試料を採取し、組織の観察を行った。さらに、鉱物モードおよび、斜長石斑晶の粒径分布とアスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)の推定を行った。また、EPMAおよびSEMを用いて斑晶鉱物の化学組成の分析を行った。
殺生溶岩に含まれる斑晶鉱物は、斜長石+単斜輝石+斜方輝石+磁鉄鉱±かんらん石であり、石基はガラス質である。石基に含まれる斜長石斑晶の長軸の長さは0.04~4.9㎜と多様な大きさを示す。斜長石斑晶・微斑晶は、長軸の長さが短いものほどアスペクト比が大きい値を示し、針状の形を示す。また、一枚の溶岩流でも、粗粒な斑晶に富む箇所と細粒な斑晶に富む箇所が存在する。一方、斑晶モードは、石基54.2~59.0%、斜長石33.4~38.1%、磁鉄鉱2.1~4.2%、輝石3.0~6.4%の幅となり溶岩流内では均質であった。
SEMおよびEPMAを用いて化学組成の解析を行った結果、斜長石斑晶の構造としては、正累帯構造、逆累帯構造、振動累帯構造、局所的にAn#の値が違うパッチ状累帯構造、同心円状の汚濁帯累帯構造の5種類が観察された。単一のサンプル内で5種類全て見つかったもの、振動、パッチ状、汚濁帯の3種類しか見つかっていないものが存在した。斜長石斑晶は、An#55~84と一枚の溶岩流内でも幅広い組成を示した。希に発見されるかんらん石は母岩の安山岩質溶岩とは非平衡である高いMg#(~83)を示す。
複数のサンプルから、opx-magnetiteシンプレクタイトが確認できた。直径は2~4㎜で楕円形の形を示し、中心には、50~575μm程度の磁鉄鉱が斑点状や縞模様の形で集中し、磁鉄鉱を覆う形で直径75~975μm程度の細粒の斜方輝石が塊状で分布していた。斜方輝石は、屈折率やバイレフリンゼンスが低く、同じ薄片に含まれる通常の斜方輝石斑晶とは鏡下で大きく異なる特徴を示す。外縁部には10~675μmの様々な大きさの斜長石が付着していた。このような構造はかんらん石の急激な酸化によって生じると推定されており (Goode, 1974など)、殺生溶岩の安山岩マグマの形成中に、急激に酸素雰囲気が上昇するイベントが存在していたことを示唆する。
本研究の結果、一度の噴出イベントで流出した溶岩流内では、斑晶量は、すべての地点で均質であり、最終的な到達温度は均質であったことが推定された。一方、溶岩流内でも、斜長石のサイズや化学組成にいくつかの種類があることが分かった。殺生溶岩をもたらしたマグマだまり内部での結晶化の速度、すなわち冷却速度が多様性を持つことが示唆される。また、opx-magnetiteシンプレクタイトが存在していたことから、草津白根山の安山岩溶岩の生成プロセスにおいて急激な酸化イベントが起きていたことが示された。
参考文献
早川・由井 (1989) 第四紀研究, 28, 1-17
宇都ほか (1983) 草津白根火山地質図, 地質調査所
高橋ほか (2009) 日本大学文理学部自然科学研究所 研究紀要 No.45 (2010) 205-254
上木・寺田 (2012) 火山 第57巻(2012) 第4号 235-251
津根・寅丸 (2004)火山 第49巻(2004) 第5号 249-266
鈴木 (2006) 火山 第51巻(2006) 第6号 373-391
Goode (1974) Nature, vol. 248, pp.500-501