日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC55_1PO1] 活動的火山

2014年5月1日(木) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、市原 美恵(東京大学地震研究所)

18:15 〜 19:30

[SVC55-P03] 2008年の噴火以降の雌阿寒岳における地磁気全磁力変化

*島村 哲也1有田 真1増子 徳道1藤井 郁子1福井 敬一1小木曽 仁2 (1.気象庁地磁気観測所、2.気象庁地震火山部精密地震観測室)

キーワード:雌阿寒岳, 地磁気全磁力, 火山, 噴火, 熱消磁

2008年の噴火以降大きな変化がみられなかった雌阿寒岳の全磁力観測値は,2013年7月に顕著な減少を始めた.全磁力観測値の減少は山体内部の昇温によるものと考えられるが,地磁気以外の観測値には顕著な変化はみられていない.本研究では,最近の変化を中心に雌阿寒岳における火山活動と全磁力変化について報告する.
雌阿寒岳は活動的な火山であり,近年では主にポンマチネシリ火口において1988年,1996年,1998年,2006年,2008年と小規模ながらも水蒸気噴火が繰り返し発生している(気象庁,2013).気象庁地磁気観測所では,雌阿寒岳の火山活動に伴う地磁気変化をとらえることを目的として,1992年以降年1~2回の全磁力繰り返し観測を実施している.繰り返し観測の観測点は観測当初はポンマチネシリ火口東側と南側を中心に12点設置したが,順次観測点を見直し現在は30数点で観測を行っている.2003年10月16日には観測の時間分解能を上げるため,ポンマチネシリ火口南側斜面に全磁力連続観測点(MEA)を設置し,5分間隔の観測値が得られている.加えて2013年9月28日には新たに全磁力観測点(ME2)をポンマチネシリ火口とMEAの間に設置し,MEA同様5分間隔の観測値が得られている.
地磁気の観測値には,地球外核や太陽等の火山以外の要因に伴う経時変化が含まれている.このため,連続観測並びに繰り返し観測ともに同時刻の女満別観測施設(MMB.雌阿寒岳からほぼ北北東約60km)での観測値との差をみることで火山以外の要因を取り除き,火山要因の地磁気変化を抽出している.このほかに,気温変化によると思われる年周変化の補正,観測点の局所的な磁化方向の差異から生じる太陽活動等の影響に対する地点差の補正等を施している.
MEAにおける全磁力連続観測値(以下,MEA全磁力)は,2008年の噴火の際に顕著な減少がみられた.特に11月18日の噴火の2日前には,火山性微動の振幅の増加と共に, MEA全磁力にも減少がみられ,火山噴火予知の可能性が示された(橋本ほか,2009).2008年の噴火以降MEA全磁力は約半年間減少が続いたが,2009年6月頃には減少はほぼ停止した.2009年7月にはMEA全磁力は噴火以前と同様に再び緩やかな増加に転じ,山体内部の冷却が示唆された.その後,2011年1月から2013年6月まではMEA全磁力には若干の増減があったもののほぼ横ばいで推移し,この間は山体内部の温度低下が停止していた(山体内部への熱の収支が釣り合った状態)と考えられる.2013年7月には再びMEA全磁力に顕著な減少傾向がみられるようになり,山体内部の温度上昇が再開している可能性が高い.2013年11月以降,MEA全磁力の減少はやや緩やかになったものの2013年1月現在も継続している.
ME2における全磁力連続観測値(以下,ME2全磁力)も,2013年9月末の観測開始以来,MEA全磁力と同様の変化傾向となっている.MEA全磁力とME2全磁力の差に大きな変化がみられないことから,2013年10月以降の熱消磁源の位置はほとんど変化していないと考えられる.
山体内部の昇温域(熱消磁源)については,2008年の噴火の際に繰り返し観測の結果と磁気ダイポールを仮定した熱消磁モデルにより,ポンマチネシリ96-1火口(以下,96-1火口)南側斜面地下に推定されている(橋本ほか,2009).この熱消磁源は, 2008年11月16日の火山性微動の震源の移動域(Ogiso and Yomogida, 2012)に含まれる.また,2013年のMEA全磁力の減少も,2008年と同様に96-1火口南側斜面地下に熱消磁源が推定されている.なお,解析には火山用地殻活動解析支援ソフトウェアMaGCAP-V(気象研究所地震火山部,2013)を使用した.
2008年のMEA全磁力の低下の際には,噴火に伴い,火山性地震や火山性微動,噴煙高度の増加などがみられたが,2013年7月以降のMEA全磁力の低下では10月に火山性微動が1回あったものの火山性地震や火山性微動,噴煙高度,GPSによる地殻変動等に顕著な変化はみられていない(札幌管区気象台火山監視・情報センター,2013).現在のところ噴火にはいたっていないが,今回のように顕著な表面現象や地殻変動を伴わない山体内部の昇温を監視するには,特に地磁気の連続観測が有効と考えられる.また,熱消磁源の位置を監視する上では複数の連続観測点による観測が有効と考えられる.