日本地球惑星科学連合2014年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC55_1PO1] 活動的火山

2014年5月1日(木) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、市原 美恵(東京大学地震研究所)

18:15 〜 19:30

[SVC55-P07] 十和田火山・平安噴火の噴火推移における新知見

*広井 良美1宮本 毅2 (1.東北大・院理、2.東北大・東北アジア研セ)

キーワード:十和田火山, 平安噴火, イントラプリニアンフロー, 溢流型火砕流

1.はじめに
十和田火山における最新の噴火である平安噴火(Hayakawa,1985)は,二重カルデラ湖である中湖を給源とし(工藤,2010), マグマ噴火とマグマ水蒸気噴火を交互に繰り返す活発な活動であった.詳細な噴火層序は広井・宮本(2010)にて報告したが,本稿ではその最初の噴出物であるプリニー式降下軽石ユニット(OYU-1)の推移及びクライマックスの噴出物である毛馬内火砕流(KPf)の発生機構について新たな知見が得られたため報告する.

2.OYU-1ユニット中に挟在する細粒火山灰
平安噴火最初の噴出物であるプリニー式降下軽石OYU-1は南西方向に分布主軸を持ち,給源から50km遠方まで確認できる.多くの露頭において層構造を持たず,淘汰の良い一様な粗粒軽石層の層相を示し,安定した噴煙柱の形成による降下軽石であると考えられてきた.しかし今回,給源から12km圏内の複数地点において細粒火山灰層を挟在することが確認できた.細粒火山灰層には2種類あり,1つはOYU-1の下部に挟在する1枚のベージュ色の火山灰層で,層厚1?8cm,給源から南西?南南東の範囲に分布する.もう1つはOYU-1の上部に挟在する複数枚の灰色の火山灰層で,層厚1?3cm,給源から南西?南南西の範囲に分布する.
いずれの火山灰層も降下軽石層と互層し,多くは軽石層と明瞭な境界を持つ.火山灰層を挟在しない場合のOYU-1は粒径の変化のない一様な層相を示すことから,噴煙柱が継続しているなかで一部地域にのみ火山灰層が指向性を持って堆積したことがわかる.また火山灰は軽石層と懸濁することなく明瞭な境界をもつことから,降下堆積物ではなく,極めて短時間に堆積した流れ堆積物であることがわかる.また谷地形に支配されることなく微高地上や稜線を越えた地点にも分布しており,比較的流動性の高いサージ様の堆積物であると判断される.従って,これらの火山灰層はプリニー式降下軽石中の流れ堆積物であることから,OYU-1のintra-plinian flowであるといえる.
その成因としては以下の2通りが考えられ,1つは分布範囲が狭く小規模であることから,噴煙柱の部分崩壊に起因する可能性が示唆される.OYU-1規模の噴煙柱の場合は噴煙柱の全方位に流下する傾向があるとされる(福島・小林,2000)が,今回,全方位ではなく分布主軸方向に偏った分布を示している要因としては,強風(22m/s)の風下側にあたることが考えられる.
2つめは,平安噴火の給源火口がカルデラ湖であることから,部分的ないし一時的にマグマ-水比を充足したマグマ水蒸気爆発由来のベースサージである可能性も考えられる.OYU-1に続くOYU-2はマグマ水蒸気噴火によるベースサージ堆積物であり,またOYU-1の噴出中にマグマ水蒸気噴火を起こし得るマグマへと徐々に変化している(Hiroi and Miyamoto,2013)ことからも,この火山灰層はマグマ水蒸気噴火への推移に際する前駆的な現象である可能性も挙げられる.

3.KPfの分布と流出形態
平安噴火のクライマックスにあたるKPfは,噴出量約5km3の火砕流堆積物である(Hayakawa,1985).KPfのカルデラ外の分布は,東縁の奥入瀬川の他は十和田カルデラ南縁に限られる.十和田カルデラは南縁が最も低く(標高630m),リム上でKPfが確認できるのは標高760mが最高点である.また給源に最も近いリム上に位置する赤岩山(給源から2km,標高785m),及びその背後の沢沿いには分布が確認できない.従来,KPfは直前のユニットであるOYU-3のプリニー式噴煙柱の崩壊による火砕流であると考えられてきた(松浦ほか,2007等).しかしながら,KPfの分布は十和田カルデラリムの低所を選択的に流下したことを示し,地形的高所は給源に最も近い地点であっても堆積が確認できない.噴煙柱崩壊によって発生する火砕流の場合には高高度の噴煙柱が発生源となることから,このような低所偏重の分布傾向が現れるとは考えにくい.よって,KPfは噴煙柱崩壊型ではなく溢流型の火砕流であると考えられる.これは,KPf発生の直前の噴火様式がプリニー式降下軽石のユニットOYU-3ではなく,マグマ水蒸気噴火によるベースサージユニットOYU-4であるとした広井・宮本(2010)の結果とも整合的である.

4.まとめ
平安噴火のように複雑な噴火推移を辿った活動においては,今回報告したような火口近傍のごく狭い地域に分布する堆積物や,単純なモデルには則さない噴出物が観察される.それらの噴出物の発生が噴出率の変化のようなマグマの内的要因によるのか,湖水の影響といった外的要因によるのかを判断することは,噴火形態を決定する要因を明らかにするための好材料となると期待される.