日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC55_1PO1] 活動的火山

2014年5月1日(木) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、市原 美恵(東京大学地震研究所)

18:15 〜 19:30

[SVC55-P20] 噴煙中に含まれる微量気体成分の安定同位体を指標に用いた活動的火山における噴気の遠隔温度推定

*小松 大祐1角皆 潤1中川 書子2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.北海道大学大学院理学研究院)

キーワード:火山ガス, 二酸化炭素, 水素, 安定同位体, 同位体交換平衡, 遠隔温度測定

【はじめに】
活動的火山の一つである阿蘇火山中岳第1火口の南壁噴気地帯では、1993年から気象庁などによる赤外放射温度計を用いた表面温度測定がなされているが、その温度は最高でも500度程度である。また低い時には最高温度が100度を下回るなど、明瞭な時間変化も観測されている。一方、同噴気地帯では赤熱現象が頻繁に観測されており、噴気温度は赤外放射温度計によって得られた表面温度よりはるかに高温となっている可能性が指摘されている。実際一部の高解像度の赤外放射温度計を用いた観測で、最高800度程度の表面温度が観測されたこともあるが(Saito et al., 2005)、そこでもやはり明瞭な時間変化が観測されている(Furukawa, 2010)。他方、噴気プルームのCO/CO2組成やH2/H2O組成、SO2/H2S組成などの遠隔観測から、同噴気ガスは800度前後の平衡温度を示すことが明らかになったが(Mori and Notsu, 2008; Shinohara et al., 2010)、この平衡温度には有意な時間変化は認められていない。我々は2010年に火山ガスプルーム中のH2の水素同位体比から噴気中のH2の水素同位体比を推定し、これを温度に換算することで噴気温度を遠隔から推定する水素同位体遠隔温度測定法(HIReTS: Hydrogen Isotope Remote Temperature Sensing)を利用して、同噴気地帯の噴気温度を866+-96度と推定した(Tsunogai et al., 2011)。本研究では2013年11月までに合わせて7回の観測を行い、より正確な噴気温度を推定するとともにその時間変化を明らかにすることを試みた。さらにプルーム試料のCO2にも着目し、同様の方法論によって異なる指標から噴気温度を推定し、より正確な温度推定を目指した。
【方法】
プルーム試料の採取は2010年3月から2013年11月まで7回行った。いずれも噴気地帯まで直線で150-300m程度の火口壁の上から、各回14-26試料のプルーム試料を内容積300mLの真空ガラス容器に大気圧まで分取して持ち帰り、連続フロー型質量分析システムを用いてH2濃度および水素安定同位体組成を分析し、噴気ガス中のH2の水素同位体比と噴気温度を推定した。2013年11月の2回の観測についてはH2と同様にプルーム試料のCO2の酸素同位体を分析し、同様の方法論によって異なる指標から噴気温度を推定した。
【結果・考察】
噴気プルーム中のH2濃度は、対流圏H2のバックグランド濃度に近い0.51 ppmvから最高9.75ppmvまで幅広く分布し、平均でも1.5ppmvと高いH2濃度を示した。噴気プルーム中のH2濃度と水素同位体比の関係はいずれも明瞭な二成分混合線を示し、噴気ガス中のH2の水素同位体比を10 permil 程度の小さなばらつきで推定することが出来た。ここから島弧火山のマグマ水の値(-24+-7 permil vs VSMOW)を噴気ガス中のH2Oの水素同位体組成として用い、同位体平衡から求めた噴気温度は838~929度と推定できた。また、噴気プルーム中CO2濃度はバックグランド濃度に対して最大20%の濃度異常を検出でき、同様の方法論によって噴気温度は600度以上と推定できた。安定同位体を指標に用いた噴気の遠隔温度推定により、同噴気は赤外放射温度計を用いた観測表面温度の長期変化や赤熱の有無とは無関係に、噴気ガスの平衡温度に近い高温状態を保ちつつ、100度程度の有意な時間変化があることが分かった。