日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC55_1PM2] 活動的火山

2014年5月1日(木) 16:15 〜 17:30 416 (4F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、市原 美恵(東京大学地震研究所)、座長:山本 希(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、風間 卓仁(京都大学理学研究科)

16:15 〜 16:30

[SVC55-P32_PG] 高周波地震波振幅の解析から推定されるタール火山(フィリピン)の浅部S波減衰領域とマグマシステム

ポスター講演3分口頭発表枠

*熊谷 博之1Lacson Rudy2前田 裕太1Figueroa Melquiades2山品 匡史3Bornas Ma. Antonia2 (1.名古屋大学環境学研究科、2.フィリピン火山地震研究所、3.高知大学理学部)

フィリピンのタール火山は歴史的に活発な噴火活動を繰り返し起こし、多くの人的・物的被害を周辺地域に与えてきた(Torres et al., 1995)。タール火山の監視を強化するために、JST-JICAのSATREPSプロジェクトにより、広帯域地震計・空振計・GPS・磁力計を用いたリアルタイム観測網が2010年11月に設置された。この観測網によりタール火山で発生した火山構造性(VT)地震が観測されている。これらの地震について高周波地震波振幅を用いた震源決定(ASL)手法を用いた震源位置と初動走時による震源位置を比較した結果、両者に大きな差が生じるイベントが存在することが分かった。この差を生じさせた要因について解析を行った結果、タールの火山島の東側斜面直下にS波を強く減衰させる領域が推定された。本発表ではその解析結果を示すとともに、この減衰領域には脱ガスを起こしているマグマが存在すると解釈できることを示す。

Kumagai et al. (2013) に基づきASL法を用いてタール火山で2011-2013年に発生したVT地震の震源決定を行った。この手法はS波の等方輻射の仮定に基づき、高周波(7-12 Hz)の地震波振幅を用いて震源位置を推定する。S波の等方輻射は、地震波の散乱による伝播の効果によって成り立っていると解釈されている。1次元速度構造と均質非弾性構造(Q = 50)のモデルを用いてASL法による震源決定を行った。初動走時の震源決定は、1次元速度構造モデルを用いて差分法に基づく走時計算を用いた手法(Benz et al., 1996)により行った。

ASL法による震源位置と初動走時による震源位置を比較した結果、両者に大きな差がある地震が存在し、それらはタール湖にある火山島の東側で発生していた。このような特定の領域のみで発生する差は、局所的な構造の異常に原因があると推定される。ASL法は速度構造には影響を受けにくいため(Kumagai et al., 2013)、減衰の大きい領域を仮定することで説明できるかを検討した。火山島の周辺にグリッドノードを配置し、各ノードで直方体を仮定したQの小さい領域を設定した。直方体の各辺とQの値を変化させ(その周辺はQ = 50で固定)、それぞれのQモデルに関して、差分法によるパルス幅の計算(Tomatsu et al., 2001)から地震波の減衰量を推定し、ASL法による震源再決定を行った。

その結果、火山島東斜面の直下にQ = 10 の領域を設定することで、ASL法と初動走時による震源位置の差を大きく減少できることが分かった。この結果は、S波を強く減衰させる領域の存在を示しており、この領域には流体の存在が示唆される。この減衰領域は、活発な噴気帯の直下に位置しており、さらにGPS観測から推定された圧力源(Bartel et al., 2003)の上にある。また電磁気探査から推定された低比抵抗領域(Yamaya et al., 2013)と一致している。さらにタール火山で1993年に行われた人工地震探査から推定された減衰領域(Nishigami et al., 1994)とも非常に良い一致を示している。以上のことから、タール火山島の東側斜面直下に見られるS波を強く減衰させる領域は、マグマ火道の最上部で脱ガスを起こしているマグマであると解釈できる。さらにそのようなマグマが20年以上にわたって定常的に存在していた可能性を示唆している。

Bartel et al., JGR, 108, 2475, 2003.
Benz et al., JGR, 101, 8111-8128, 1996.
Kumagai et al., JVGR, 257, 57-71, 2013.
Nishigami et al., Bull. Disas. Prev. Res. Inst. Kyoto Univ., 44, 123-138, 1994.
Tomatsu et al., GJI, 146, 781-794, 2001.
Torres et al., Eos, 76, 241-248, 1995.
Yamaya et al., JVGR, 75:729, 2013.