日本地球惑星科学連合2014年大会

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[U-04_29AM1] 最新の大気科学:航空機による大気科学・地球観測研究の展開

2014年4月29日(火) 09:00 〜 10:45 211 (2F)

コンビーナ:*小池 真(東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻)、近藤 豊(東京大学・大学院理学系研究科)、新野 宏(東京大学大気海洋研究所海洋物理学部門海洋大気力学分野)、佐藤 正樹(東京大学大気海洋研究所)、座長:足立 光司(気象研究所)

09:45 〜 10:00

[U04-04] 航空機によるエアロゾルの観測とモデル研究

*大島 長1近藤 豊2小池 真2茂木 信宏2竹川 暢之3北 和之4中村 尚3 (1.気象研究所、2.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、3.東京大学先端科学技術研究センター、4.茨城大学理学部)

キーワード:航空機観測, エアロゾル, ブラックカーボン, エアロゾルモデル, 物質輸送, 除去過程

大気中の多くのエアロゾル成分が太陽放射を散乱するのに対し、ブラックカーボン粒子は太陽放射を効率的に吸収し、大気を加熱する。このためブラックカーボンが気候システムに果たす役割は非常に重要であると認識されている。しかしながら、現在の全球モデルによるブラックカーボンの空間分布やその光吸収量の計算には大きな不確定性が含まれている。その主な要因としては、モデルで扱われるエアロゾルの鉛直輸送過程や降水による除去過程に大きな不確定性が含まれていることが挙げられる。エアロゾルの鉛直輸送過程と除去過程は、ブラックカーボンの空間分布や放射影響を直接的に決定するため、これらの過程の理解を深めることは非常に重要である。そのためには、対流圏全高度におけるブラックカーボンの観測が必要であるが、ブラックカーボンの主要な発生源である東アジア域では、2001年春にACE AsiaとTRACE-P観測が実施されて以来、対流圏全高度でのブラックカーボンの航空機観測は実施されてこなかった。 このような状況の中で、2009年3-4月にA-FORCE(Aerosol Radiative Forcing in East Asia)航空機観測が黄海・東シナ海・西太平洋上において実施され、計120回にわたって、ブラックカーボン粒子、一酸化炭素(CO)濃度、エアロゾル数濃度、雲微物理特性などが高度0-9 km において測定された(Oshima et al., 2012; Moteki et al., 2012; Koike et al., 2012; Takegawa et al., 2013)。その結果、非常に高濃度のブラックカーボンが黄海上空の自由対流圏中において観測された。また本研究(Oshima et al., 2012)では、COをトレーサとして扱うことで(数日間の時間スケールではCOは大気中から除去されないとみなせる)、観測された空気塊中のブラックカーボン濃度とCO濃度の比率の変化を用いて、大気中に排出されたブラックカーボンの何割が除去されずに観測点まで輸送されたかを示す輸送効率(除去過程の指標)を導出した。このブラックカーボンの輸送効率は、空気塊が輸送中に経験する降水量に応じて減少し、高度2-4 kmでは70-90%、高度4-9kmでは30-50%程度であった。 引き続き本研究(Oshima et al., 2013)では、これらの観測から得られた知見に基づき、領域三次元化学輸送モデルWRF-CMAQで扱われるエアロゾルの湿性沈着過程に独自の改良を加え、A-FORCE航空機観測との比較を通じて、ブラックカーボンの鉛直輸送過程と除去過程について調べた。観測とモデル結果を比較したところ、モデルは観測から推定した輸送効率を全高度においてよく再現しており、これはモデルで取り扱われているエアロゾルの除去過程の妥当性を示している。春季東アジア域におけるブラックカーボンの輸送経路は主に3種類あり、大気境界層内を東向きに輸送される経路(ブラックカーボンの降水による除去は弱い)に加えて、中国北東域(低気圧活動に伴う上昇、中程度の除去)と中国南部の内陸域(地形性と積雲対流活動に伴う上昇、強い除去)において境界層内から自由対流圏中へと上方輸送され、引き続き西風によって下部対流圏中と中部対流圏中をそれぞれ輸送される経路が存在することが示された。 本講演では、航空機によるエアロゾル観測の重要性と、航空機観測のモデル研究への重要性について焦点を当て、上記の研究成果について発表したい。参考文献Koike, M., et al. (2012), J. Geophys. Res., 117, D17205, doi:10.1029/2011JD017324.Moteki, N., et al. (2012), Geophys. Res. Lett., 39, L13802, doi:10.1029/2012GL052034.Oshima, N., et al. (2012), J. Geophys. Res., 117, D03204, doi:10.1029/2011JD016552.Oshima, N., et al. (2013), J. Geophys. Res. Atmos., 118, 13175-13198, doi:10.1002/2013JD020262.Takegawa, N., et al. (2013), Aerosol Sci. Technol., 47(10), 1059-1065.