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[U04-09] 航空機搭載高分解能合成開口レーダによる地球観測
キーワード:合成開口レーダ, ポラリメトリ, インターフェロメトリー
合成開口レーダ(SAR)は、天候や日射にかかわらず、地上の状況を画像として取得できるため、人工衛星や航空機に搭載されてきているが、その有用性におけるもっとも重要な性能は、高い高度からの観測にかかわらず、高分解能であることである。衛星搭載のSARは、1990年代より継続して打ち上げられてきており、現在までに実証から実用への段階となってきている。しかし、衛星搭載SARは、軌道上のセンサであるため観測機会、観測方向に制約がある。この制約に対して、航空機搭載SARは比較的自由に観測方向が得られること、場合によっては短期間に集中的な観測も可能であることなど観測機会を自由に三択することができる。航空機SARは雲の上からの観測が可能であることから、衛星同様に天候による制約は非常に少ない。性能の面からいえば、航空機センサは、衛星搭載に比べ、重量・寸法・電力等のリソースの制約や信頼性にかけるコストは小さくて済むことから、開発時点での最高の性能と機能を搭載できることが大きなメリットである。情報通信研究機構(NICT)は1993年より航空機搭載SARの開発に着手し、1998年には2周波(X帯およびL帯)の航空機SARであるPi-SARの運用を開始した。以降2007年まで、Pi-SARによる各種の実証実験を実施してきた。Pi-SARのL帯(波長約23cm)は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を分担し、X帯(波長約3cm) はNICTの開発であるが、同じ航空機に搭載して同時観測を実施した。それぞれの波長の持つ地表面の散乱特性や透過性を利用した応用的な研究も成果を上げてきた。NICTが開発したX帯レーダは、表面からの散乱が卓越的であることからL帯に比べ光学観測に近い判読性のある画像を取得できるほか、1.5mの高分解能性と2つのアンテナによる立体観測(クロストラック・インターフェロメトリ)機能を有する。高さ方向の精度は約2mである。また、両波長とも垂直偏波と水平偏波の同時送受信による偏波散乱特性計測(ポラリメトリ)の機能を有して、地表面の識別能力を高めている。完全なポラリメトリ手法は現在においても衛星SARではリソースの制約が大きく実験的な段階にとどまっている。X帯SARの高分解能性とポラリメトリ、インターフェロメトリ機能を駆使した自然災害に向けた実際例は、2000年に発生した北海道有珠山および三宅島の火山噴火であり、数度にわたる継続的な観測と関係機関へのデータ提供を行い、その有用性を実証した。さらに、NICTは2008年には分解能を30cmまで高めたPi-SAR2を開発した。Pi-SAR初号機同様にポラリメトリおよびインターフェロメトリも搭載している。このレーダは、SARの応用範囲のうち、特に災害監視に重点を置いて実用性を向上させたものである。高分解能の必要性は、2004年に発生した新潟県中越地震をPi-SAR初号機による観測を実施したときに、山岳地域の小規模で多数の土砂崩れに対して十分な判読が困難であったことの反省による。また、被災現地等へのデータの迅速な配信が重要であることが課題となっていた。こうした課題の解決を目指し開発したPi-SAR2により、2011年の東日本大震災時には、災害発生翌日に東北地方沿岸部を中心とした広域な観測を実施し24時間以内に一部データ(単偏波(白黒画像)、2km四方)の公開を実施したが、分解能の向上による大量のデータと広大な観測領域を一度に処理解析する能力が追い付かないこと、また大容量なデータを配信・公開する適切な手段がないことが、新たな課題として見いだされた。この問題に対しては、震災から現在までに画像再生処理システムの高速化とデータの公開システムの開発を行ってきた。また、画像再生処理システムは航空機上での処理システムにも応用し、2km四方の領域であれば観測して航空機が旋回している間に全偏波の画像再生処理を終えて、疑似カラー画像を商用衛星回線経由でネット上に公開することも可能とした。また、データ公開はPi-SAR初号機で観測した過去のデータも含めて、オンデマンドで処理要求を受け付けるシステムを開発した。このように地震や火山をはじめとする自然災害の被害把握を主な目的で開発し、その実績を持つ航空機SARであるが、SARの持つ全天候性や航空機の機動性を活かして、地球科学、地球環境への応用がさらに期待されるところである。Pi-SAR初号機を用いた応用については、海洋、海氷、森林植生、火山などを観測目標にした各種の応用研究で成果を得てきたところであるが、これらの知見に加えてPi-SAR2が実現した30cmの高分解能性能を活用した応用研究も進めているところである