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[U04-12] 航空機観測を利用したリモートセンシング研究の新展開
キーワード:リモートセンシング, 航空機観測, 植生, 大気, マイクロ波センサー
千葉大学環境リモートセンシング研究センター(CEReS)では、衛星データおよび関連する地上観測データを処理・アーカイブ・公開し、リモートセンシングおよび環境関連分野のコミュニティに幅広く提供を行っている。大気リモートセンシングにおいては、日本を含むアジア地域において放射計ネットワーク(SKYNET)を展開し、関連するライダーや太陽光・天空光スペクトル観測と相まって衛星データ検証や東アジア域における大気エアロゾル・雲・大気汚染などの研究を進めている。植生リモートセンシング分野では、衛星データによる全球のバイオマス量の定量的把握に向け、衛星・地上および無人ヘリ観測によって陸上植生反射率計測の高精度化の研究を行っている。この研究を通じて、JAXAの次世代衛星であるGCOM-C1に向けての植生量リトリーバルアルゴリズムも開発されてきた。マイクロ波リモートセンシング分野では、小型衛星および無人航空機搭載に向けて円偏波合成開口レーダ (circularly polarized synthetic aperture radar, CP-SAR) の開発を進展させてきている。 現在、CEReSを含め、関係する大学附置の研究機関が連携して有人飛行機をチャーターし、大気観測およびリモートセンシングに新展開をもたらす新規研究計画が提案されている。この取り組みを通じ、大気科学・気候システム研究(東大)、雲・降水システム研究(名大)、およびリモートセンシングデータの高精度での科学的活用(千葉大)が大きく進展することが期待される。千葉大CEReSを中心としたリモートセンシング研究においては、航空機なしでは不可能であった衛星データの高精度大気補正を実現し、陸域、雪氷域、沿岸域などにおけるリモートセンシングデータの高精度化を図ることがその主目標となる。 高分解能の衛星データが増えるにつれ、そのデータから地表面や海洋表面の反射率などの物理量を高精度に導出する必要性が高まっている。その際の最大の問題となるのが大気中で起こる散乱と吸収による観測スペクトルの変化である。大気分子による影響(レイリー散乱)は比較的簡単に補正が可能である。これに対して、雲とエアロゾルは空間的にも時間的にも変動が大きく、これらによるミー散乱の効果を正確に把握することには困難が伴う。従来は、この大気の効果を調べて補正するため、たとえばサンフォトメータやスカイラジオメータなどの放射測器を多数地上に展開し、エアロゾルや雲の光学特性の計測が行われてきた。また、無人ヘリコプターや無人航空機による地上高度150メートル以下での計測を実施してきた。しかし、これらの方法によっても、検証データの広域化には大きな制約があったことは否めない。 今回、立案している航空機プロジェクトでは、有人航空機により高高度からの地表面および放射量観測が実現可能である。放射計やハイパースペクトルカメラなどを無人(低高度)・有人(高高度)航空機に搭載して地表面および大気データを取得することにより、大気補正に関わる放射伝達アルゴリズムの改善を実証的に進めることが可能になる。これによって、陸上植生反射率測定による植生物理量(バイオマスなど)推定アルゴリズムの精度を飛躍的に向上させることができる。さらに、CP-SARを有人飛行機に搭載してデータを取得することにより、全天候型の地表面観測技術の実証試験を行うことができる。 アジア地域は世界でも有数の人口密集地域であり、経済活動の活発化によるPM2.5の越境汚染などの問題が深刻化している。また、気候変動にともなって持続可能な食料生産が問題となっている今日、これまで航空機リモートセンシング観測の空白域であった東アジアにおいて大気汚染物質のその場観測を行い、大気光学特性を明らかにし、衛星データからの高精度物理量導出を可能とすることの意義は大きい。同時に、航空機により計画的に大気・陸面・海洋観測を行うことは、地震・火山・土木・生態系など隣接領域への波及および減災に向けた社会的効果も大きいものと考えられる。