18:15 〜 19:30
[U05-P09] 硫黄酸化細菌とシアノバクテリアの関わる温泉成ストロマトライトの縞組織形成プロセス
キーワード:トラバーチン, 縞組織, ストロマトライト, シアノバクテリア, 硫黄酸化細菌
二酸化炭素とカルシウムイオンに富む温泉水から沈殿する炭酸塩堆積物(トラバーチン)には,一般的にサブミリメートルオーダーの縞組織が発達し,太古のストロマトライトと組織・成分ともに酷似している.近年,水温が55度以下の硫化物に乏しいトラバーチン堆積場では,シアノバクテリアまたは従属栄養細菌のバイオフィルムの成長が日周期で起こり,無機的に沈殿する結晶の成長を阻害することで,縞が形成されることが確認された(1,2).しかし,より高温で硫化物に富むトラバーチン堆積場では,縞組織は一般的でなくなり(3),上述の微生物–鉱物相互作用プロセスが生じなくなるものと予測される.本研究では,高温で硫化物に富むインドネシアスマトラ島北部のSipoholon温泉において,縞状組織が発達する地球微生物学的条件を探索する.
Sipoholon温泉は,世界最大のカルデラ湖であるトバ湖の南部Tarutung地域で湧出する多数の温泉の中で,トラバーチンが最も活発に堆積する温泉である.調査地は,約5万 km2にわたってトラバーチンが発達し,人為的影響の少ないエリアA, 採石場内のエリア B,温泉施設に隣接するエリア Cの3つに分けられる.全てのエリアでは,湯元付近で,硫黄芝や淡黄色の硫黄を含む縞を持たない堆積物が,中流から下流にかけて白色の縞をもつ堆積物が形成されていた.白色のトラバーチンの表面の色は,水温に応じて変化しており,55度付近ではピンク色を,50度以下では緑色を呈していた.緑色の試料では,針状結晶が密集した明色層とバイオフィルムと細粒結晶構成される孔隙質な暗色層が0.5-1.0 mmの間隔で繰り返すことで縞が形成されていた.一方,ピンク色の試料では,明色層と暗色層の境界は不明瞭あった.
エリアCにおいて,温泉水と緑色・ピンク色のトラバーチンを48時間,4時間おきにサンプリングを行った結果,2つとも暗色層が昼間に,明色層が夜間に形成されていることを確認した.湯元及びトラバーチンが発達する地点において,流量,pH, アルカリ度,カルシウムイオン濃度は昼と夜でほぼ一定であった.溶存酸素濃度は,湯元では期間を通して一定であったが,堆積地点では昼間に高く,夜間に低い値をとっていた.2色の試料の16S rRNA遺伝子の系統解析を行ったところ,微生物の群集組成は両試料で似通っており,偏性化学栄養性の硫黄酸化細菌が卓越していた.ただし,緑色の試料でシアノバクテリアとクロロフレクサス等の光合成細菌がより多様であった.蛍光顕微鏡で光合成細菌の分布を観察した結果,緑色の試料では昼間の暗色層に,ピンク色の試料では縞とは無関係に,表面付近で疎らに分布していた.
以上の結果から,緑色の試料では,従来の報告と同様に,光合成細菌が日周期でトラバーチン表面にバイオフィルムを形成することで縞を形成することがわかった.一方,ピンク色の試料では,光合成によって生成された酸素が増加する昼間に,硫黄酸化細菌を主体とするバイオフィルムが発達することで縞が形成される.これは日輪形成における新たな微生物プロセスである.ピンク色の試料の縞が不明瞭なのは,縞を形成する化学合成細菌を主体とするバイオフィルムの生育が,酸素の供給という外的要因でコントロールされるためである考えられる.この新規のプロセスは,酸素に乏しく硫化物に富む太古海洋で生じうる,ストロマトライトを形成する微生物プロセスの一つである可能性がある.
[引用文献]
(1) Takashima, C. and Kano, A. (2008) Sedimentary Geology, 208, 114-119.
(2) Okumura, T., Takashima, C., Shiraishi, F., Nishida, S., Kano, A. (2013) Geomicrobiology Journal, 30, 910-927.
(3) Fouke, B.W., Farmer, J.D., Des Marais, D.J., Pratt, L., Sturchio, N.C., Burns, P.C., Discipulo, M.K. (2000) Journal of Sedimentary Research, 70, 565-585.
Sipoholon温泉は,世界最大のカルデラ湖であるトバ湖の南部Tarutung地域で湧出する多数の温泉の中で,トラバーチンが最も活発に堆積する温泉である.調査地は,約5万 km2にわたってトラバーチンが発達し,人為的影響の少ないエリアA, 採石場内のエリア B,温泉施設に隣接するエリア Cの3つに分けられる.全てのエリアでは,湯元付近で,硫黄芝や淡黄色の硫黄を含む縞を持たない堆積物が,中流から下流にかけて白色の縞をもつ堆積物が形成されていた.白色のトラバーチンの表面の色は,水温に応じて変化しており,55度付近ではピンク色を,50度以下では緑色を呈していた.緑色の試料では,針状結晶が密集した明色層とバイオフィルムと細粒結晶構成される孔隙質な暗色層が0.5-1.0 mmの間隔で繰り返すことで縞が形成されていた.一方,ピンク色の試料では,明色層と暗色層の境界は不明瞭あった.
エリアCにおいて,温泉水と緑色・ピンク色のトラバーチンを48時間,4時間おきにサンプリングを行った結果,2つとも暗色層が昼間に,明色層が夜間に形成されていることを確認した.湯元及びトラバーチンが発達する地点において,流量,pH, アルカリ度,カルシウムイオン濃度は昼と夜でほぼ一定であった.溶存酸素濃度は,湯元では期間を通して一定であったが,堆積地点では昼間に高く,夜間に低い値をとっていた.2色の試料の16S rRNA遺伝子の系統解析を行ったところ,微生物の群集組成は両試料で似通っており,偏性化学栄養性の硫黄酸化細菌が卓越していた.ただし,緑色の試料でシアノバクテリアとクロロフレクサス等の光合成細菌がより多様であった.蛍光顕微鏡で光合成細菌の分布を観察した結果,緑色の試料では昼間の暗色層に,ピンク色の試料では縞とは無関係に,表面付近で疎らに分布していた.
以上の結果から,緑色の試料では,従来の報告と同様に,光合成細菌が日周期でトラバーチン表面にバイオフィルムを形成することで縞を形成することがわかった.一方,ピンク色の試料では,光合成によって生成された酸素が増加する昼間に,硫黄酸化細菌を主体とするバイオフィルムが発達することで縞が形成される.これは日輪形成における新たな微生物プロセスである.ピンク色の試料の縞が不明瞭なのは,縞を形成する化学合成細菌を主体とするバイオフィルムの生育が,酸素の供給という外的要因でコントロールされるためである考えられる.この新規のプロセスは,酸素に乏しく硫化物に富む太古海洋で生じうる,ストロマトライトを形成する微生物プロセスの一つである可能性がある.
[引用文献]
(1) Takashima, C. and Kano, A. (2008) Sedimentary Geology, 208, 114-119.
(2) Okumura, T., Takashima, C., Shiraishi, F., Nishida, S., Kano, A. (2013) Geomicrobiology Journal, 30, 910-927.
(3) Fouke, B.W., Farmer, J.D., Des Marais, D.J., Pratt, L., Sturchio, N.C., Burns, P.C., Discipulo, M.K. (2000) Journal of Sedimentary Research, 70, 565-585.