日本地球惑星科学連合2014年大会

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[U-05_30PO1] 生命-水-鉱物-大気相互作用

2014年4月30日(水) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、白石 史人(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)、長沼 毅(広島大学大学院生物圏科学研究科)、掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、横山 正(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)、中村 謙太郎(独立行政法人海洋研究開発機構 (JAMSTEC) システム地球ラボ プレカンブリアンエコシステムラボユニット)

18:15 〜 19:30

[U05-P15] スマトラ島北部に発達するトラバーチンの流下経路での水質変化と微生物相の応答

*高島 千鶴1平野 未沙1奥村 知世2狩野 彰宏3 (1.佐賀大学 文化教育学部、2.海洋研究開発機構、3.九州大学 比較社会文化研究院)

キーワード:トラバーチン, アラゴナイト, 硫黄酸化細菌, シアノバクテリア

インドネシアのスマトラ島には多くの火山が存在し,それに伴い温泉が多く湧出している.これらの温泉の中には,トラバーチンと呼ばれる堆積物を沈殿させるものが知られているが,研究例は少ない.トラバーチンは先カンブリア紀のストロマトライトと成分的・組織的にも類似しているため,先カンブリア紀の海洋環境や微生物相を知る手がかりになる可能性がある(Takashima and Kano, 2008; Okumura et al., 2013).
本研究対象は,スマトラ島北部にある世界最大のカルデラ湖であるトバ湖の約30 km南に位置するSipoholon温泉である.Sipoholon温泉では総面積約5万 km2の3つのエリアにトラバーチンが活発に堆積している.本研究では人工的な影響が最も少ないArea Aを対象とし,温泉水の溶存成分,水の酸素・炭素安定同位体比の測定,堆積物組織に関する基礎的な情報を記載する.それを基に,流下経路沿いでの水質変化やトラバーチンの特徴を明らかし,微生物相との関連性について考察する.
Area Aの流路は全長約35 mで,湯元から約15 mまでの緩斜面では幅50 cm程度の流路沿いにトラバーチンが沈殿している.そこから水は急傾斜になりトラバーチンドームの急斜面上で広く流れる.ドームの下は再び傾斜が緩くなり,温泉水はテラス状のリムプールを経て,最終的に直径約5 mのプールに流れ込む.湯元では286 L/minの硫黄臭を伴う温泉水が湧出しており,水温は61.4 °C,pH 6.48,溶存酸素濃度(DO) 0.60 mg/Lの高温・中性・微好気的な水である.温泉水はCa2+(約360 mg/L),SO42-(約530 mg/L)に富み,Mg2+やCl-に乏しい.上流から下流へと水温は低下し,DOは大気中の酸素を吸収するため増加する.下流に向かいpHは上昇し,アルカリ度とCa2+濃度は低下している.このことはCO2の脱ガスにより,炭酸塩に対する過飽和度が上昇し,トラバーチンが沈殿していることを示す.
Sipoholon温泉のトラバーチンは上流では比較的固いが,下流にいくほど柔らかくなる傾向がある.これは炭酸塩鉱物の結晶型や組織の違いを反映している.上流の硬い部分はアラゴナイトの針状結晶が球状に密集した組織を示し,下流の柔らかい部分にはダンベル型の結晶が見られた.XRD分析によると,トラバーチンは主にアラゴナイトで構成されているが,場所によってはカルサイトと共存していることがある.
トラバーチンの表面に付着している微生物相は,上流から下流にかけて明瞭に変化している.上流付近に見られる白色のフィラメント状微生物マットは硫黄酸化細菌で構成される硫黄芝(牧ほか,2004)であると考えられる.硫黄芝は硫化水素を含んだ高温でほぼ中性の環境で繁殖することが知られており,これらは湯元付近の条件と一致する.中流域の流量の多い領域には薄いピンク色をした部分が見られ,紅色イオウ細菌が存在していると考えられる.下流域の流量が少ない場所には緑色の微生物マットが付着しており,蛍光顕微鏡下で自家蛍光を示すフィラメント状シアノバクテリアを主体とする.このシアノバクテリアマットが覆っている場所の水温はいずれも45 °C以下であった.このように,Sipoholon温泉の堆積物の色変化は流量や流速に伴う水温変化や栄養源に応答した微生物相変化を反映している.

【引用文献】
Takashima, C. and Kano, A. (2008) Microbial processes forming daily lamination in a stromatolitic travertine. Sedimentary Geology, 208, 114-119.
Okumura, T. et al. (2013) Processes forming daily lamination in a microbe-rich travertine under low flow condition at the Nagano-yu Hot Spring, Southwestern Japan. Geomicrobiology Journal, 30, 910-927.
牧陽之助ほか(2004) 微生物被膜における原初的な生物共働のモデル 硫黄酸化細菌群集(硫黄芝)におけるフィラメント構造と硫黄酸化反応.Viva Origino, 32, 96-108.