日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 U (ユニオン) » ユニオン

[U-06_28PM1] 太陽系小天体研究の新展開

2014年4月28日(月) 14:15 〜 16:00 503 (5F)

コンビーナ:*荒川 政彦(神戸大学大学院理学研究科)、中本 泰史(東京工業大学)、渡邊 誠一郎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)、安部 正真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、石黒 正晃(ソウル大学物理天文学科)、座長:安部 正真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

14:15 〜 14:35

[U06-12] 宇宙空間のコンピュータビジョン: はやぶさ2のための光学航法技術の開発

*太田 直哉1 (1.群馬大学)

キーワード:画像計測, 形状復元, 光学ナビゲーション, はやぶさ2

コンピュータビジョン(以下CVと表記)はカメラで得られた画像を処理し、そこに撮影されている物体の情報を得る技術である。我々はやぶさ2形状モデル開発グループはこの技術をはやぶさ2の光学ナビゲーションのために利用し、小惑星の形状を復元する技術を開発している。本稿ではその状況について報告する。一方、CV技術の宇宙環境へ適用は、単なる既存の技術の応用に留まらず、この分野を新たな展開へ導く要素も含んでいる。本稿ではこれについても言及する。小惑星探査機はやぶさ2のミッションにおいて、小惑星へタッチダウンする位置の決定などのために、小惑星の形状モデルを作成する必要がある。しかし小惑星が遠方のため、このモデルは地上からの観測では作成できず、探査機が小惑星に近づいた時点での計測に依らなければならない。またレーザーなど能動的な計測方法は使用エネルギーの点から困難で、カメラによる画像を用いた手法が主になる。我々はこの技術を確立することを目的としている。画像から物体形状を計算する技術は、CV分野で精力的に研究されている。したがって我々の目的のためには、惑星科学の研究者とCVをはじめとする画像技術の研究者との共同作業が望ましい。グループの運営は惑星科学の研究者である東京大学の杉田精司教授、会津大学の平田成准教授などを中心に行われているが、研究者としてはCV分野から早稲田大学の石川博教授と筆者、コンピュータグラフィクス(以下CG)分野からは東京大学の高橋成雄准教授が参加して、分野融合的に研究を行っている。現在我々はCV分野で開発されたstructure from motionの技術をそのまま小惑星の形状復元に適用し、有効性を検証している。これは対象を多方向から撮影した画像を用いて形状を計算する技術である。その結果、はやぶさ2のナビゲーションに必要な最低限の形状が得られることは確認されている。しかしより柔軟なナビゲーションを可能にする精度を得ようとすれば、復元技術を更に高度化しなければならない。そのため、上記に加えphotometric stereoの利用を検討している。photometric stereoは物体の反射特性を利用した形状復元法である。しかしこの技術の利用に当たっては、CV技術をそのまま本目的に利用できない。その理由は探査機が小惑星の形状を復元する状況と、この技術が本来想定している状況とが異るからである。本来のphotometric stereoは、対象物体を同一視点から照明方向を変えて撮影することを想定している。しかし探査機を小惑星の自転に同期して同じ相対位置に制御し続けることは、燃料の制約上困難である。また物体の反射モデルとしてCV分野ではLambert則やPhongのモデルが用いられるが、小惑星の反射特性はHapke則やMinnaert則などによって記述される。このことから、我々のグループではphotometric stereoを基礎にしながらも、宇宙探査のための小惑星形状復元のための新たな技術を開発し、はやぶさ2のナビゲーションに役立てることを考えている。CVの発祥を考えると、人間あるいは生物の視覚機能を人工的に実現することが動機となっている。そのため開発された技術も用途を限定せず、使用環境も地球上の一般的な空間を仮定している場合が多い。このことから上記のように、それが宇宙探査のための計測技術としてはそのまま利用できない場合が起こる。しかし、逆に宇宙探査という明確な目的をもってCV技術を見た場合、この技術にまた違った展開が期待できるのではないかと思われる。宇宙空間での使用を想定した場合、以下のような特殊性が見出せる。まず照明環境は太陽からの平行光のみを想定すれば良い場合も多く、この単純性を最大限に利用した処理が開発できる。また前述のように、地上の一般物体を想定したものではない特別な反射モデルが利用される。また探査機の中で処理を行う場合は実行できる処理量は限られる。そのため処理の目的を明確にし、それを達成する必要最小限の処理を開発するという評価基準が必要になる。また画像を地上に転送して処理する場合には、今度は画像の枚数が制限される。その一方必要とする処理量に制限は少なく、更に長時間の処理も許容される場合も多い。このような場合には対象のCGモデルから画像を作成し、それが観測画像に一致するようにモデルを更新するCG-CV loopのような手法も現実味を帯びるのではないかと思われる。その他形状だけではなく、惑星探査のための計測として必要な情報を得ること、処理結果に関して誤差の指標(error bar)をつけること、など宇宙探査に必要な情報を積極的に提供する技術の開発も、CV分野の一つの重要な研究方向になり得ると考えている。