日本地球惑星科学連合2014年大会

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[U-06_28PM2] 太陽系小天体研究の新展開

2014年4月28日(月) 16:15 〜 17:56 503 (5F)

コンビーナ:*荒川 政彦(神戸大学大学院理学研究科)、中本 泰史(東京工業大学)、渡邊 誠一郎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)、安部 正真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、石黒 正晃(ソウル大学物理天文学科)、座長:石黒 正晃(ソウル大学物理天文学科)

17:05 〜 17:20

[U06-21] 反射スペクトルから見た木星小衛星の起源

*高遠 徳尚1寺田 宏1吉田 二美1大槻 圭史2 (1.国立天文台、2.神戸大学)

キーワード:衛星, 木星, スペクトル, ヒルダ群, トロヤ群

1.はじめに 木星にはガリレオ衛星より内側を回る4つの小衛星と、その外側を回る多数の不規則衛星が存在する。力学的な考察と測光データから、これらの衛星は木星系外の天体が捕獲されたものと考えられている。しかしそれを証明する直接的証拠に欠けており、また太陽系内のどの領域で形成された天体をどのようなプロセスで捕獲したのかも未だ解明されていない。木星の不規則衛星の成因を解明することは、Niceモデルに見られるような太陽系内の動径方向の物質移動の理論に関して重要な制限を与えることができる点でも重要である。本研究では、Thebeの波長3μm帯での狭帯域測光観測を行い、水質変性鉱物の存在を確認するとともに、今まで分光観測がなされていなかった主要な不規則衛星の可視分光観測を行い、そのスペクトル型を正確に決定し、木星周辺の小惑星(ヒルダ群、トロヤ群)との比較を行った。2.観測と結果 (1)Thebeの3μm帯狭帯域測光観測Thebe は暗くかつ木星に近いため、8m望遠鏡でも3μm帯の分光観測は困難である。そこでSubaru IRCSのH2O Iceフィルター(λλ=2.974-3.126μm)とKバンドフィルターによる測光観測から、3μm帯の吸収の深さを求めた(観測は2005年5月25日UTに行った)。その結果ThebeにもAmalthea と同様に3μm帯に吸収があり、3.05μmの反射率はKバンドの0.67倍であることが分かった。この方法の有効性は、スペクトルが既知のAmalthea を同様に観測することで確認している。(2)不規則衛星の可視分光観測順行衛星のHimalia family (5天体中4天体)とThemisto、逆行衛星のCarme, Kalyke (Carme family), Ananke, Pasiphae(それぞれのfamilyの代表), Sinope, Callirrhoe の11天体、およびAmalthea(今までに可視光スペクトルが得られていなかった)を、2012年12月7日UT及び2014年12月21日UTにSubaru/FOCAS を用いて分光観測(λ=0.38-0.9μm, 一部天体はλ=0.48-0.9μm、スリット幅2”) を行った。その結果、Himalia family は広義のCタイプ、同じ順行のThemistoはDタイプ、逆行衛星はAnankeがC,PasiphaeがX,その他はDタイプであることが分かった。Amalthea は過去に得られたデータと合わせてみると、波長0.6-2.4μmで見るとDタイプと良く一致するが、波長0.6μm以下では急激に反射率が減少している。また3μm帯に深い吸収があるのが特徴である。3.考察 ガリレオ衛星より内側を回るAmalthea, Thebe と、Dタイプ小惑星とのスペクトル上の大きな違いは3μm帯の吸収(水質変性鉱物によると考えられる)の有無である。これらの小衛星は小惑星から木星が捕獲した天体そのものではなく、木星系円盤の一部となってガリレオ衛星の材料にもなった、円盤内でかなりプロセス(衝突合体、加熱)された天体が木星に落ちてきたものと考える方が自然である。Amalthea のスペクトルがCalistoの氷が少ない領域のスペクトルと類似していることも、この考えを支持している。不規則衛星は木星が小惑星から捕獲したと考えられているが、どこからいつ捕獲したのかは分かっていない。可能性が高いのは現在の木星の近くに存在するトロヤ群あるいはヒルダ群である。これらの小惑星のスペクトルタイプは不規則衛星と似ているものが多い。 Grav et al.(2012)によると、どちらの群もC,Pタイプ(~Xタイプ)とDタイプとで構成されていて、Dタイプの割合(個数の割合)は直径が大きいほど少なくなるが、トロヤ群の方が全体としてDタイプの割合が多く、また直径によるDタイプの割合の減少の仕方が緩い(直径20km以上の天体でDタイプの割合は、トロヤ群約85%、ヒルダ群約75%であるが、直径100km以上ではトロヤ群約70%に対しヒルダ群は約10%である)。我々の観測結果からC,XタイプとDタイプの割合を直径の関数として求めると、木星の不規則衛星はヒルダ群の分布と良く一致することが分かった。全く違った起源からスペクトルタイプ-サイズ分布を再現するのは容易ではないと思われるので、この結果は木星の不規則衛星がヒルダ群と共通の供給源から捕獲されたことを強く示唆している。と4.まとめ (1) Amalthea, Thebeなどのガリレオ衛星の内側を回る小衛星は、周木星円盤内でプロセスされた微衛星の残骸である可能性が高い。(2) ガリレオ衛星の外側を回る不規則衛星は、トロヤ群ではなくヒルダ群と共通の供給源から捕獲された天体の可能性が高い。