日本地球惑星科学連合2014年大会

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[U-06_28PO1] 太陽系小天体研究の新展開

2014年4月28日(月) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*荒川 政彦(神戸大学大学院理学研究科)、中本 泰史(東京工業大学)、渡邊 誠一郎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)、安部 正真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、石黒 正晃(ソウル大学物理天文学科)

18:15 〜 19:30

[U06-P04] 「はやぶさ2」搭載中間赤外カメラTIR:科学観測と地上較正

*岡田 達明1福原 哲哉2田中 智1田口 真3荒井 武彦4今村 剛1千秋 博紀5出村 裕英6小川 佳子6北里 宏平6長谷川 直1関口 朋彦7中村 良介8神山 徹8松永 恒雄9和田 武彦1滝田 隼10坂谷 尚哉10堀川 大和11ヘルバート ヨルン12ミュラー トマス13ハガーマン アクセル14はやぶさ2 TIRチーム 4 (1.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、2.北海道大学、3.立教大学、4.宇宙航空研究開発機構月惑星探査プログラムグループ、5.千葉工業大学、6.会津大学、7.北海道教育大学、8.産業総合研究所、9.国立環境研究所、10.東京大学、11.総合研究大学院大学、12.ドイツ航空宇宙センター、13.マックスプランク地球外物理学研究所、14.オープン大学)

キーワード:小惑星, はやぶさ2, 熱物性, 熱赤外, ボロメータ, 惑星探査

小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載する中間赤外カメラTIRは近地球型のC型小惑星(162173) 1999JU3の2次元熱撮像を行い,表層熱物性を全球的に調べる装置である.小天体探査では始原物質の探求や初期進化過程を示す物質科学探査に注目が集まるが,微惑星の形成やその後の力学的な成長・進化過程の解明には物性探査も重要である.
原始太陽系で微惑星が形成される際には低密度(高空隙)天体が作られ,衝突合体を伴う成長過程により圧密されてゆくと考えられる.C型小惑星は低密度な例も多く,稠密な岩塊が間隙の多い状態で集合しているか,多孔質な岩塊や高空隙土壌の堆積が考えられる.これらの特徴はTIR観測から得られる熱物性,特に熱慣性により識別できる可能性がある.C型小惑星では過去に脱水過程を経たと考えられる.その痕跡が貫入地形や溝地形として小惑星上に現存し,熱慣性の差異として発見できるかもしれない.小惑星イトカワでもみられた表層粒子流や,クレータ周辺のイジェクタ堆積層などは周辺地域に比べて平均粒径が小粒かつ高空隙率が想定されるため,熱慣性の違いによって検出できるだろう.周辺浮遊物(衛星)や,ダスト雲,揮発性噴出物があれば,それらからの赤外放射を検出できる可能性がある.また,現地で熱撮像を行うことにより,地上観測から見積もられる小惑星の熱物性の推定精度について評価することができ,将来の小惑星地上観測の信頼度に与える貢献度は大きい.
TIRは2次元非冷却ボロメータを検出器に用いた中間赤外カメラである.有効画素数は328×248,視野は16°×12°,画素解像度は0.05°であり,高度20kmのHome Position(HP)から撮像すると20m(直径約0.9kmの小惑星1999JU3の全体が45画素),高度1kmから撮像すると1m以下の画素解像度で280m×210mの範囲をカバーできる.これはHPからの小惑星全体の特徴の把握やサンプル回収地点の事前・事後に行う現地調査・産状把握に適する.なお,TIRの光学系の焦点距離は34mだが,距離5mでも1cm以上の構造を識別できる.「はやぶさ2」では小惑星1999JU3を太陽距離0.96~1.42AUで太陽側から観測する.C型小惑星のアルベド0.05,熱放射率0.90~0.95と仮定すると,小惑星昼側の表層温度は-40℃~+150℃と見積もられる.TIRの観測波長域は8~12μmであり,表層からの熱放射への感度は良好である.
TIRの撮像性能の較正試験を-40~+150℃に対して実施してきている.最終目標はこの温度範囲で各画素に対して絶対温度3℃,NETDで0.3℃以下の精度を達成する較正データを求めることである.較正装置は,低温側は真空チェンバ中の黒体ターゲット,高温側はクリーンブース内でオイルバスや平面黒体ターゲットを用いており,TIRのレンズ温度や取り付けパネル面温度を制御しながら実施してきた.観測時には較正時と同じOFPN(Onboard Flat Pattern Noise)データを設定する必要があり,全温度域で同一のOFPNの使用が理想である.これまで概ね成立することを確認しているが,別の較正システムの使用による低温・高温域のデータの接続,検出器への入射エネルギーによるデータのバイアス変化の補正,幾何較正などを進め,TIRの較正精度の向上を目指している.講演ではTIRの科学観測目標と較正試験の結果について報告する.