10:30 〜 10:45
[U06-P04_PG] 「はやぶさ2」搭載中間赤外カメラTIR:科学観測と地上較正
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:小惑星, はやぶさ2, 熱物性, 熱赤外, ボロメータ, 惑星探査
小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載する中間赤外カメラTIRは近地球型のC型小惑星(162173) 1999JU3の2次元熱撮像を行い,表層熱物性を全球的に調べる装置である.小天体探査では始原物質の探求や初期進化過程を示す物質科学探査に注目が集まるが,微惑星の形成やその後の力学的な成長・進化過程の解明には物性探査も重要である.
原始太陽系で微惑星が形成される際には低密度(高空隙)天体が作られ,衝突合体を伴う成長過程により圧密されてゆくと考えられる.C型小惑星は低密度な例も多く,稠密な岩塊が間隙の多い状態で集合しているか,多孔質な岩塊や高空隙土壌の堆積が考えられる.これらの特徴はTIR観測から得られる熱物性,特に熱慣性により識別できる可能性がある.C型小惑星では過去に脱水過程を経たと考えられる.その痕跡が貫入地形や溝地形として小惑星上に現存し,熱慣性の差異として発見できるかもしれない.小惑星イトカワでもみられた表層粒子流や,クレータ周辺のイジェクタ堆積層などは周辺地域に比べて平均粒径が小粒かつ高空隙率が想定されるため,熱慣性の違いによって検出できるだろう.周辺浮遊物(衛星)や,ダスト雲,揮発性噴出物があれば,それらからの赤外放射を検出できる可能性がある.また,現地で熱撮像を行うことにより,地上観測から見積もられる小惑星の熱物性の推定精度について評価することができ,将来の小惑星地上観測の信頼度に与える貢献度は大きい.
TIRは2次元非冷却ボロメータを検出器に用いた中間赤外カメラである.有効画素数は328×248,視野は16°×12°,画素解像度は0.05°であり,高度20kmのHome Position(HP)から撮像すると20m(直径約0.9kmの小惑星1999JU3の全体が45画素),高度1kmから撮像すると1m以下の画素解像度で280m×210mの範囲をカバーできる.これはHPからの小惑星全体の特徴の把握やサンプル回収地点の事前・事後に行う現地調査・産状把握に適する.なお,TIRの光学系の焦点距離は34mだが,距離5mでも1cm以上の構造を識別できる.「はやぶさ2」では小惑星1999JU3を太陽距離0.96~1.42AUで太陽側から観測する.C型小惑星のアルベド0.05,熱放射率0.90~0.95と仮定すると,小惑星昼側の表層温度は-40℃~+150℃と見積もられる.TIRの観測波長域は8~12μmであり,表層からの熱放射への感度は良好である.
TIRの撮像性能の較正試験を-40~+150℃に対して実施してきている.最終目標はこの温度範囲で各画素に対して絶対温度3℃,NETDで0.3℃以下の精度を達成する較正データを求めることである.較正装置は,低温側は真空チェンバ中の黒体ターゲット,高温側はクリーンブース内でオイルバスや平面黒体ターゲットを用いており,TIRのレンズ温度や取り付けパネル面温度を制御しながら実施してきた.観測時には較正時と同じOFPN(Onboard Flat Pattern Noise)データを設定する必要があり,全温度域で同一のOFPNの使用が理想である.これまで概ね成立することを確認しているが,別の較正システムの使用による低温・高温域のデータの接続,検出器への入射エネルギーによるデータのバイアス変化の補正,幾何較正などを進め,TIRの較正精度の向上を目指している.講演ではTIRの科学観測目標と較正試験の結果について報告する.
原始太陽系で微惑星が形成される際には低密度(高空隙)天体が作られ,衝突合体を伴う成長過程により圧密されてゆくと考えられる.C型小惑星は低密度な例も多く,稠密な岩塊が間隙の多い状態で集合しているか,多孔質な岩塊や高空隙土壌の堆積が考えられる.これらの特徴はTIR観測から得られる熱物性,特に熱慣性により識別できる可能性がある.C型小惑星では過去に脱水過程を経たと考えられる.その痕跡が貫入地形や溝地形として小惑星上に現存し,熱慣性の差異として発見できるかもしれない.小惑星イトカワでもみられた表層粒子流や,クレータ周辺のイジェクタ堆積層などは周辺地域に比べて平均粒径が小粒かつ高空隙率が想定されるため,熱慣性の違いによって検出できるだろう.周辺浮遊物(衛星)や,ダスト雲,揮発性噴出物があれば,それらからの赤外放射を検出できる可能性がある.また,現地で熱撮像を行うことにより,地上観測から見積もられる小惑星の熱物性の推定精度について評価することができ,将来の小惑星地上観測の信頼度に与える貢献度は大きい.
TIRは2次元非冷却ボロメータを検出器に用いた中間赤外カメラである.有効画素数は328×248,視野は16°×12°,画素解像度は0.05°であり,高度20kmのHome Position(HP)から撮像すると20m(直径約0.9kmの小惑星1999JU3の全体が45画素),高度1kmから撮像すると1m以下の画素解像度で280m×210mの範囲をカバーできる.これはHPからの小惑星全体の特徴の把握やサンプル回収地点の事前・事後に行う現地調査・産状把握に適する.なお,TIRの光学系の焦点距離は34mだが,距離5mでも1cm以上の構造を識別できる.「はやぶさ2」では小惑星1999JU3を太陽距離0.96~1.42AUで太陽側から観測する.C型小惑星のアルベド0.05,熱放射率0.90~0.95と仮定すると,小惑星昼側の表層温度は-40℃~+150℃と見積もられる.TIRの観測波長域は8~12μmであり,表層からの熱放射への感度は良好である.
TIRの撮像性能の較正試験を-40~+150℃に対して実施してきている.最終目標はこの温度範囲で各画素に対して絶対温度3℃,NETDで0.3℃以下の精度を達成する較正データを求めることである.較正装置は,低温側は真空チェンバ中の黒体ターゲット,高温側はクリーンブース内でオイルバスや平面黒体ターゲットを用いており,TIRのレンズ温度や取り付けパネル面温度を制御しながら実施してきた.観測時には較正時と同じOFPN(Onboard Flat Pattern Noise)データを設定する必要があり,全温度域で同一のOFPNの使用が理想である.これまで概ね成立することを確認しているが,別の較正システムの使用による低温・高温域のデータの接続,検出器への入射エネルギーによるデータのバイアス変化の補正,幾何較正などを進め,TIRの較正精度の向上を目指している.講演ではTIRの科学観測目標と較正試験の結果について報告する.