日本地球惑星科学連合2014年大会

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[U-06_28AM1] 太陽系小天体研究の新展開

2014年4月28日(月) 09:00 〜 10:45 503 (5F)

コンビーナ:*荒川 政彦(神戸大学大学院理学研究科)、中本 泰史(東京工業大学)、渡邊 誠一郎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)、安部 正真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、石黒 正晃(ソウル大学物理天文学科)、座長:荒川 政彦(神戸大学大学院理学研究科)

10:30 〜 10:45

[U06-P08_PG] 石英砂上への衝突クレーター形成実験: エジェクタの速度分布に対する弾丸密度依存性

ポスター講演3分口頭発表枠

*辻堂 さやか1荒川 政彦1和田 浩二2鈴木 絢子3 (1.神戸大学大学院理学研究科、2.千葉工業大学惑星探査研究センター、3.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)

1.はじめに
 衝突クレーター形成に伴うエジェクタの速度分布を理解することは、固体天体表層の衝突進化を考える上で重要である。特に小惑星の表層は様々な物性を持つと考えられ,表層の空隙率、強度、密度等は、その起源や進化により大きく変化する。従って,様々な物性を持つ表面でのクレーター形成に伴うエジェクタ速度分布の知見が重要である.一方,小惑星帯には幾つかのタイプの小惑星が存在し,その物性はタイプにより大きく異なる.力学強度や密度が異なる小惑星同士が衝突してクレーターを形成すると,その組み合わせによって,形成されるクレーターの大きさや形状は変化する.はやぶさ,Dawn,はやぶさ2などの小惑星探査が進む中,小惑星表層に関する情報は飛躍的に増えてきた.今後,より精密な室内実験により,クレーター形成過程に対する衝突物質の依存性が明らかになれば,観測されるクレーターから衝突天体の種類などが特定できるようになる.そのためには、ターゲットや弾丸の物性を系統的に変化させたクレーター形成実験が必要である。しかしながら、これまで,クレーター形成に伴うエジェクタの速度分布に関しては,弾丸密度の依存性に関する研究は十分に行われていない。
 そこで、本研究では弾丸密度に着目し、衝突クレーター形成に伴うエジェクタの速度分布に対する弾丸密度依存性を明らかにした。そのために8種類の密度の異なる弾丸を用いて石英砂ターゲットに対して衝突クレーター形成実験を行った.

2.実験・解析方法
 標的粒子には、直径500μmの石英砂、直径500μmまたは100μmのガラスビーズ球の3種類を用いた。それらの粒子を直径30cmの金属容器に入れて標的試料とした.石英砂またはガラスビーズを用いて準備した標的試料の空隙率はそれぞれ、44.7%、41.4%、37.6%である。標的を設置する真空チャンバー内の圧力は、103Paとした。また、弾丸には密度の異なる8種類の球形弾丸(ナイロン、ガラス、アルミナ、ジルコニア、チタン、鉄、銅、鉛)を用いた。弾丸直径はすべて3mmであり、この弾丸を直径10mmのサボを用いて、一段式軽ガス銃により加速した。エジェクタの正確な観測には,弾丸の加速ガスからの影響を完全に除く必要がある.そのために2つの手段を講じている.まず,弾丸発射用サボにより加速ガスの直接流入を防いでいる.さらに,金属容器をアクリルボックスに入れて,チャンバー内に広がった加速ガスが回り込んでエジェクタに影響を与えるのを防いでいる.標的への衝突速度(vi)は、24?217m/sとした。
 放出された個々の標的粒子の軌跡を計測することによってエジェクタ速度分布を求めた。そのために高速デジタルビデオカメラを使用して、撮影速度2000-10000コマ/秒で粒子放出の様子を撮影した。取得したビデオから>30個の粒子の軌跡を追い、それぞれの粒子の放出位置と放出速度、そして放出角度の関係を求めた。

3.結果・考察
撮影された高速ビデオ画像でエジェクタが広がっている様子を見ると,密度の小さなナイロン弾丸と密度の大きなジルコニア弾丸ではその形状が大きく異なることがわかった.ナイロンでは,エジェクタカーテンの外縁が水平面となす角が小さく50°程度でありエジェクタカーテンは潰れて見える.一方,ジルコニアではその角度は58°程度とカーテンが立って見えた.このカーテン形状の差違の理由を調べるために粒子の放出角度について調べてみた.その結果,放出位置と放出角度については、全ての弾丸において衝突点に近い地点から放出された粒子ほど、放出角度が大きく、放出位置が衝突点から遠くなるにつれて減少していく傾向が見られた.その角度は,最大48°程度であり,30°程度まで角度は小さくなった.しかしながら,この傾向の弾丸密度による依存性は見られなかった。これは,エジェクタカーテン形状の差違は,放出角度の違いが原因ではないことを示している.一方,エジェクタ速度のスケール則(式①)において、弾丸密度が6g/cm3の範囲では、μは弾丸密度に比例していることがわかった。(式②)
v0/v_ = a(x/R)-1/μ -式①
μ=0.05ρ+038 -式②
すなわち,カーテン形状の差違は,速度分布の差違が原因であることがわかった.しかしながら,鉄についてはカーテンが立っているにも関わらずこのトレンドに乗らなかった.さらに、クレーターサイズの弾丸密度依存性について(式③)のような関係が求まった。
[R*(ρt/m)^(1/3)]=11*[ρt/ρp]^0.096 ?式③
今後,さらに広い速度範囲で様々な物性を持つ標的試料に対してエジェクタ速度分布の弾丸密度依存性を明らかにしていきたい.