日本地球惑星科学連合2014年大会

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[U-06_28PO1] 太陽系小天体研究の新展開

2014年4月28日(月) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*荒川 政彦(神戸大学大学院理学研究科)、中本 泰史(東京工業大学)、渡邊 誠一郎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)、安部 正真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、石黒 正晃(ソウル大学物理天文学科)

18:15 〜 19:30

[U06-P14] 塩を含むイトカワ粒子のコンソーシアム研究の現状

*矢田 達1上椙 真之1唐牛 譲1野口 高明2伊藤 元雄3石橋 之宏1岡田 達明1安部 正真1 (1.宇宙航空研究開発機構、2.茨城大学理学部、3.海洋研究開発機構)

キーワード:イトカワ, 小惑星, 塩, コンソーシアム

2010年6月、小惑星探査機「はやぶさ」はS型地球近傍小惑星イトカワより表層粒子試料を地球に帰還させた(Abe et al., 2011)。それ以降、JAXAキュレーションチーム(ESCuTe)では、「はやぶさ」のサンプルキャッチャーからの粒子の回収・記載を進め、現在の所、400個超の粒子が初期記載済みとして公表されている(Yada et al., 2014)。この内、希少な特徴を持つ粒子については、複数の研究グループからのプロポーザルが重複し、配布が困難になることが予想される為、コンソーシアム研究の対象となっている。JAXAキュレーションチームがコンソーシアム研究を取り纏めて、広く研究者・研究グループを募り、参加する研究者間で科学成果を最大化する為の分析準備及び分析のフローを議論の上決定し、そのフローに則って分析を進める。
 このコンソーシアム研究の対象となっている粒子の一つに、塩を含むケイ酸塩鉱物粒子がある。この粒子(RA-QD02-0129)は粒径40μmで、主に斜長石的組成のケイ酸塩からなり、その表面に3?5μmの自形のNaCl粒子が存在している。今まで記載された400個超の「はやぶさ」帰還粒子の中で、塩を含むケイ酸塩粒子は、この粒子1個だけである。
 惑星物質試料において、塩の存在は非常に希少かつ貴重である。普通コンドライト隕石では、今までにHコンドライトのモナハン、ザグ隕石からしか塩は見つかっていない。これらの隕石から見つかった塩は消滅核種のヨウ素129の痕跡が見つかっており、初期太陽系においてHコンドライト母天体もしくは他の天体で形成され、両隕石に取り込まれたと考えられている(Zolensky et al., 1999; Whitby et al., 2000)。塩の形成には水が関わっており、塩が形成された母天体の起源について貴重な情報が得られると期待される。また塩と水の存在は有機物の物質進化とも密接に絡んでおり、生命の起源にも関連する興味深い研究対象である。
 この粒子の研究でまず重要なのは、この粒子と含まれている塩の地球外起源を証明することである。地球外起源であることが示された場合、更にイトカワもしくはLLコンドライト母天体起源か、外来起源かを明らかにすることが重要となる。塩は非常に微小で、前述の隕石の塩で検出された、初期太陽系の年代を示す消滅核種ヨウ素129の娘核種キセノン129の検出は、現在の質量分析計の性能では難しい。現在の所、この微小な塩の地球外起源を証明することが出来る物質科学的証拠として考えられているのは、(1)塩からの太陽フレアトラックの検出、(2)塩表層からの太陽風ヘリウムの検出、(3)塩表層の宇宙風化層の存在、である。(1)、(3)の為には塩の超薄切片の透過電子顕微鏡観察、(2)の為にはレーザーイオン化質量分析計による分析が必要である。分析計画としては、ヘリウムを人工的に打ち込んだ塩や、モナハン隕石の塩などの模擬試料によるリハーサル分析により検出・観察手段を確立し、本番の試料の分析に望む予定である。

参考文献:
Abe M. et al. (2011) LPS XLII, Abstract #1638.
Whitby J. et al.(2000) Science 288, 1819.
Yada T. et al. (2014) LPS XLV, Abstract #1759.
Zolensky M. E. et al. (1999) Science 285, 1377.