日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

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[U-09_1PM1] 海溝型巨大地震と原子力発電所

2014年5月1日(木) 14:15 〜 16:00 502 (5F)

コンビーナ:*橋本 学(京都大学防災研究所)、川勝 均(東京大学地震研究所)、金嶋 聰(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、末次 大輔(海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター)、座長:橋本 学(京都大学防災研究所)、金嶋 聰(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

15:10 〜 15:35

[U09-03] 東北地方太平洋沖地震前後の巨大津波の研究と原発の安全審査

*岡村 行信1 (1.産業技術総合研究所)

キーワード:津波堆積物, 巨大津波, 貞観地震, 津波評価

東北地方太平洋沖地震が発生した2011年3月11日は、産業技術総合研究所が中心となって進めていた貞観地震研究が一段落し、地震調査研究推進本部ではその成果を含む日本海溝の評価が公表寸前の段階であった。一方で、原子力発電所の安全審査はスピード感が失われていた時機であったと言える。産総研による仙台平野における津波堆積物研究は2004年から開始し、2005年度から2009年度までは文部科学省のプロジェクトの一部として研究を続け、2010年春に最終報告書を提出した。その中には、福島県北部から石巻周辺で津波堆積物が広がり、その分布域まで浸水する津波を発生させるためには、宮城県から福島県沖でマグニチュード8.4以上の地震は発生したと推定されること、地震発生間隔は450から800年程度であると記述されている。その時点で、産総研の研究チームでは、津波堆積物調査の範囲が不十分であるため、北側と南側の波源域がさらに広がる可能性があること、砂質の津波堆積物の分布域より津波浸水域が広いはずであるという認識を持っていた。それを証明するための調査を福島県南部から茨城県などで開始し始めていたが、条件の良い調査地点を見つけることができていなかった。原子力発電所の安全審査は、新たな安全審査指針に既存の発電所が適合するかどうかの審査が2007年頃から始まっていた。審査は、3つのサブグループで担当を分割し、各サブグループの審査が終わった段階で全委員が集まる合同会合で最終確認を行うと手順で行われた。地震動に関する審査が優先され,その審査結果を中間報告としてまとめる作業が先行し、津波の評価を含む本報告は後回しにされた。福島第1原発の中間報告案は2009年春の全体会合に提出されたが、産総研による貞観地震の研究成果が考慮されていなかった。その後最低限のモデルだけは考慮されたが、貞観地震の本格的な評価は本報告で行うという条件で議論が先送りされた。その後の議論も津波の評価も一度も行われないまま、2011年3月11日を迎えた。産総研の貞観地震に関する研究成果は、2005年以降学会など発表で発表し、マスコミでも報道されたが、日本海溝でM8.4以上の巨大な地震と津波が発生する可能性について学会レベルで議論が広がることはなかったように思われる。さらに、想定津波の規模を大きくすることは社会的な影響と抵抗も大きかった。巨大津波に対する危機感は学会、社会全体に乏しかった中で、原子力発電所は稼働したままで審査を受けており、予定が遅れていても、原発が止まることはなかった。東北地方太平洋沖地震によってそのような状況は180°変わった。防災意識は高まり、津波や地震の想定も、既往最大ではなく、最大規模が当然になった。原発への見方も厳しくなり、安全が確認されないと稼働できない状況に変わった。国が巨大な地震・津波を想定することに躊躇しなくなったことから、地質学的な研究から想定外の巨大津波の可能性を指摘ができる余地はかなり小さくなった。しかしながら、海溝型地震についてまだわからないことは多く残っている。それらを明らかにする努力を続けるとともに、確実にわかっていることと、可能性があること、わからないことを社会に正確に伝えていくことが重要である。