日本地球惑星科学連合2014年大会

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[U-09_1PM2] 海溝型巨大地震と原子力発電所

2014年5月1日(木) 16:15 〜 18:00 502 (5F)

コンビーナ:*橋本 学(京都大学防災研究所)、川勝 均(東京大学地震研究所)、金嶋 聰(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、末次 大輔(海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター)、座長:川勝 均(東京大学地震研究所)、末次 大輔(海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター)

16:15 〜 16:40

[U09-04] 海溝型巨大地震の強震動の特性と巨大剛構造物としての原子力発電所の応答

*川瀬 博1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:強震動, 海溝型巨大地震, 剛構造物, せん断変形

東北地方太平洋沖地震では宮城県・茨城県を中心に多くの地点で大きな加速度を有する強震記録を観測した。気象庁の報告では震度7となったのは栗原市のK-NET築館(MYG004)だけであったが、震度6強を示した観測点は40地点に及んだ。その観測記録の最大加速度および最大速度は既往の距離減衰関係式と概ね対応しており、最大加速度では三陸から茨城県に至る広い沿岸地域において500Gal以上となっていたが、その大加速度領域内でも最大速度では80cm/sec以下となっていた。このように加速度が大きい割りには速度はそれほど大きくなく、兵庫県南部地震の経験から求められた大被害となる条件である最大加速度800Gal以上、最大速度100cm/sec以上の条件を満たし、かつ明瞭な「やや短周期」パルスが見られた観測記録は見あたらなかった。 実際、筑波大学の境教授は震度6強以上を記録した観測点回りの被害建物棟数を現地調査し、非常に小さい被害率であったことを報告している。また我々は東北地方・関東地方北部におけるK-NETおよびKiK-netによる観測強震動波形を兵庫県南部地震の震災の帯の中での被害率を再現できる非線形構造物応答解析モデルに入力して数値的に被害率(大破倒壊率)を計算しているが、2,700Galを記録したK-NET築館(MYG006)を含む一部の加速度の大きな地点を除きほとんどの地点で被害率は10%以下となることがわかっている。このことは剛構造設計のコンセプトに基づいて水平抵抗強度を付与することを主たる目的としている日本の耐震設計・耐震建築が、加速度が大きいだけのランダムな震動に対しては十分な抵抗力を持っていることを示している。 一方、今後発生が危惧される南海トラフ沿いの強震動予測については、中央防災会議が予測震度を計算しており、従来は南海セグメントと東南海・東海セグメントの3連動モデルまでの計算であったが、東北地方太平洋沖地震を受けて4連動モデルの震度分布を公表し、さらにそれによる被害予測結果も公表している。しかし、この4連動モデルの構造物震害予測は計算した計測震度とその計測震度―被害率の関係を用いた経験的被害関数によっているものであり、その被害関数はもっぱら兵庫県南部地震の被害率によって決まっているので、上記のような強震動特性の違いが反映されておらず、明らかに過大評価となっている。 実際、東北地方太平洋沖地震と同様に非線形構造物応答解析モデルに対して、我々が独自に統計的グリーン関数法と不均質アスペリティを有する震源モデルで計算した強震動波形を入力して被害率を計算したところ、30%以上の大被害が予測されたのはアスペリティ近傍でかつ地盤の軟弱な一部地域に留まり、全面的に大被害が生じるわけではないという結果を得ている。これは構造物の震害予測に際しては実被害を予測でき、かつ強震動特性の性質の違いを反映できる手法を用いることが重要であることを示している。 原子力発電所の巨大地震による被災リスクを考える上でもこの強震動特性と原子力発電所の応答特性との関係は重要である。一般構造物と同様に原子力発電所は剛構造設計のコンセプトに基づいて設計されており、単にその共振振動数だけを考えれば海溝型巨大地震で大加速度地震動が入力した場合、大きな応答が生じることが危惧されるわけであるが、ではそれが直ちに大きな構造物被害に結びつくかというと、一般構造物と同様なメカニズムによってそうはならない可能性が高い。 その点に関して我々は2003年時点での中央防災会議の3連動モデルの公開計算強震波形を用いて(なお4連動モデルの計算強震波形は未だ公開されていない)、その沿岸域全域での計算波形による原子力発電所の原子炉建屋の最大層間水平(せん断)変形を計算し、それと地震動最大値指標との関係を整理している(Seckin et al., 2008, WCEE)。その結果、計算された原子炉建屋の最大層間水平(せん断)変形は、その設計値を超える大きな最大加速度・短周期成分にもかかわらず弾性限界値の2倍程度に留まり、危惧されるような大被害レベルには達しないことがわかった。このことは一般に十分理解されているとは言いがたいが、原子炉建屋の(建築物としての)設計クライテリアはそのせん断変形量を最小限にすることとしているためで、言い換えると設計レベルをある周波数で超えることが直ちに被害に結びつくわけではないということを意味している。 以上本報告では、巨大海溝型地震の強震動特性と構造物被害の生じるメカニズムについて既往の研究成果に基づいて得られている知見を整理した。今後は中央防災会議の4連動モデルによる計算波形の公開を待って上記の計算を再度行って同様のことが言えるかどうかを確認する必要がある。