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★ [U10-01] 地球科学者と行政担当者の相互理解による災害軽減をめざす
行政や社会はアクションを起してこそ意味がある。そのために科学の知見を取り入れた判断・決断が必要となる。一方科学は、学術的研究によって人類の知見を広げ、深めていく。そのためいったん得られた結論でさえも、その後の研究によって覆されることもある。その結果、科学の成果を社会や行政に取り入れる場合,社会や行政が求めるイチかゼロかの判断・決断との不整合が顕在化することが多い。また地球科学の分野においては、社会や行政の前提とする時間・空間スケールと地球科学の扱う時間・空間スケールの違いによる不整合も顕在化する。科学や行政に携わる人たちは、このようなお互いの違いを理解し、協力し合う必要がある。 以下に、具体例として、火山噴火予知,地震発生の長期評価について考える。 火山噴火予知は、科学と社会・行政との関係が比較的うまく機能している。その最大の理由は,「顔の見える距離」であろう。火山の防災は、日本では気象庁の火山活動関連の情報をもとに避難が行われる。その手法や情報の妥当性については火山噴火予知連絡会で行政と研究者が同席する場で議論される。地質学から地球物理学までの分野の研究者が網羅され、多面的な検討が行われるとともに、学会においても議論がなされる。気象庁においても比較的狭い範囲の人たちが長期にわたって関係している。個別火山においても科学者の献身的な取り組みにより地元行政と研究者間の顔の見える関係が作られている。 地震の科学を直接社会に活かす役割をしているのが地震調査研究推進本部(地震本部)である。しかし、火山噴火予知と異なり、地震は研究者の人口も多い。地震調査委員会の各部会等では比較的長期間委員をする研究者が多いものの、地震本部の事務局は約2年毎に交代し、全体として顔の見える関係が保ちにくい。地震本部からこの状態なので、科学者と社会との距離が近くなることは困難である。さらに地震研究者の大半は大都市(特に首都圏)にいるため、県によっては国からの公式な情報以上の情報が自治体の防災担当者に届きにくい。 火山噴火予知に関し,社会からの要請にもとづいて火山噴火予知連で検討されて作られたのが「噴火警戒レベル」である。これはレベル設定が住民の避難行動を一対一に対応する様に作られている。これは科学的にはあきらかに背伸びをした情報であり、導入に慎重な意見もあった。現在は,安全側の運用で役立っている。例えば、2011年新燃岳の噴火は直前にまったく前兆が捉えられなかったが、前年の活動後にレベル2の情報が維持されたため、人命が失われることはなかった。 地震発生の長期評価や強震動予測図は、1995年の阪神淡路大震災後,全国で発生する地震について網羅的に評価するという社会からの要請に答えるためにめざしたものである。予測は固有地震モデルに基づいている。地震の長期的な発生確率を評価するとしたら、現時点で用いることの出来る最善の手法であろう。行政がこのような予測を行う場合,国民に対する責任から、全国隈無く評価することになる。その結果として科学的に不確実な部分も、ある種の割り切りによって答えを出す必要に迫られる。東北地方の太平洋沖については,過去の地震発生履歴に基づき領域を分割し、それぞれについて固有地震の考えを当てはめていた。それぞれの固有地震をアスペリティに対応させるという科学的裏付けの努力はされていたが、アスペリティの相互作用を取り入れることができていなかった。相互作用は、臨界現象につながる本質的な物理であり、2011年東北地方太平洋沖地震を評価の枠組みの中に取り入れられなかった原因の本質である。震災後,「東北地方太平洋型」として評価には取り入れられているものの、基本的な評価の枠組みは元のままである。これらを防災に活かすためのアクションについては,内閣府や地方自治体にゆだねられている。 以上の2例は、社会の要請、行政の施策、科学の実力との間で生み出されたものである。社会の防災に活かすための仕組みを作ろうして,科学の実力との間にギャップが生じている例である。社会や行政がアクションを起こさなければ防災に役立たない。効果的なコミュニケーションを通じて,我々が生み出したものを継続的により良いものにしていく努力が必要である。