日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG33] 陸海相互作用-沿岸生態系に果たす水・物質循環の役割-

2015年5月26日(火) 09:00 〜 10:45 202 (2F)

コンビーナ:*杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、山田 誠(総合地球環境学研究所)、小野 昌彦(産業技術総合研究所)、小路 淳(広島大学大学院生物圏科学研究科)、座長:杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、小路 淳(広島大学大学院生物圏科学研究科)

09:18 〜 09:36

[ACG33-02] ラドン濃度連続観測に基づく海底地下水の分布特性と湧出量の推定:八代海沿岸域における事例

*細野 高啓1ニックピーマン イェーサー2小野 昌彦3梁 熙俊2嶋田 純2滝川 清4 (1.熊本大学大学院先導機構、2.熊本大学自然科学研究科、3.産業技術総合研究所、4.熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター)

キーワード:海底地下水, ラドン, 海流モデル, 干潟, 湧出量, 分布

Rn-222連続観測法が提案されてから10年余りが経過し、我が国においても本方法を用いて沿岸域におけるSGDの分布や湧出量の評価が進められてきている。発表では、後背地の地形や地質が多様な八代海域を対象に、最近4年間蓄積してきたRn-222データを集約し、解析の結果得られたSGDの分布および湧出の特徴と、それら評価の方法について紹介する。
八代海域は、九州本土と天草諸島に囲まれた内海で、周囲約220 km、総面積1,200 km2を誇る。海域の周囲をとりまく地形や地質の特徴が多様なため、後背地集水域面積、地形勾配、干潟の有無、地質物質、地質構造など、どういった要素がどの程度海域のSGD分布特性に影響を与えるかを理解するうえで格好の対象となる。八代海域にスポットを当てた地域研究から見えてくる、こうした特徴を整理することで、自然界における目に見えないSGD分布特性の面白さを再認識することができる。
八代海へ注ぐ合計61の流入河川のRn-222濃度を測定した結果、地下水と比べると低いものの、河口において河川水も無視できないオーダーでRn-222を含むことが明らかとなった。そこで我々は、海域に及ぼす河川由来Rn-222濃度を評価するため、既存の海流シミュレーションをベースにRn-222モデルを構築し、海域に及ぼす河川由来Rn-222の影響評価を試みた。モデルから推定した河川由来Rn-222濃度を、曳航観測結果から差し引くことで、正味のSDG由来Rn-222濃度分布を推定した。
八代海域におけるトータルSGDフラックスは、従来提案されてきたボックスモデルに従い、推定されたSGD分布面積に、代表地点でのRn-222定点観測の結果得られた湧出率を乗じることで算定した。その結果、海域にもたらされる陸水全体の約15%がSGD由来である結果となった。さらに、Rn-222とsalinityの二成分プロット図を用い、定点観測を行った周辺海域に及ぼす各成分(FSGD、RSGD、河川水、海水)の寄与度を定性的に解析した。このような解析から想定されたSGD寄与率の特徴と、SGD誘発に関係していそうな要因(たとえば潮の満ち引きの条件や風速など)を比較検討した結果、SGD(FSGD、RSGD共に)誘発の引き金となるファクターとして、風速が最も重要であるという解析結果を得た。
八代海域では、流入河川も地下水と同様に有意なRn-222濃度を有するため、単純にRn-222濃度を海域における地下水のトレーサーと見なすことは難しい。この知見は八代海に限られたことではなく、同様の気象、地形を持つ地域では、似たような傾向が予想される。本講演では、これまで試みられたことのなかった河川由来Rn-222濃度の評価方法を含め、Rn-222観測の解析結果から読み取れるSGDの分布特性ならびに陸水全体に占める量的特徴、そして、SGD湧出メカニズムについて、八代海における最新の研究事例を通してお伝えしたいと考えている。