日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL40] 地域地質と構造発達史

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*山縣 毅(駒澤大学総合教育研究部自然科学部門)、大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

18:15 〜 19:30

[SGL40-P12] 東秩父村居用の木呂子緑色岩メランジュ

*小野 晃

キーワード:跡倉ナップ, 緑色岩メランジュ, 構造岩塊, 肥後-阿武隈帯, 蛇紋岩

はじめに 関東山地,寄居-小川地域の跡倉ナップについて,南縁部に木呂子緑色岩メランジュが分布している.跡倉層と秩父帯のジュラ紀付加体に挟まれた地質体である.この地質体は木呂子変成岩,蛇紋岩,構造岩塊で構成されている.木呂子変成岩は泥岩,砂岩,混在岩,蛇紋岩礫岩,チャート,緑色岩などが低温の高圧型変成作用を受けて形成された変成岩である[1,2].アクチノ閃石岩もその一員である.木呂子変成岩は角閃石岩,角閃岩,エピドート角閃岩,砂質変成岩など多種多様な岩塊や岩体を構造的に包有している.酸性凝灰岩,メタガブロ,トーナル岩も構造岩塊と考えられる.ただし,メタガブロは木呂子変成作用を受けている可能性がある.蛇紋岩は木呂子変成岩や構造岩塊に貫入している.なお,最近まで木呂子変成岩を構成している岩石はアクチノ閃石岩中の構造岩塊とみられていた.しかし,添付図右の地点 ae などでは泥岩,砂岩,チャート,蛇紋岩礫岩,緑色岩などが整合的に積層している.
重要データ 重要な地質データを列挙すると,1)木呂子変成岩の緑色岩について,57.4MaのK-Ar全岩年代が得られている.介在している薄い泥質レンズの年代を反映していると推定される.三波川変成岩と区別できない変成年代である.2)添付図右の地点 f の角閃岩岩塊について,402MaのK-Ar普通角閃石年代が得られている.この岩塊南端部では斜長石も普通角閃石もほとんど再結晶作用を受けていない.木呂子変成作用の影響は確認できない.3)東秩父村居用の砂質変成岩に整合的に介在している白雲母‐黒雲母‐ザクロ石片岩について,109MaのK-Ar白雲母年代値が得られている.肥後‐阿武隈帯起源の変成岩と考えられている[1,2]. 
新データ 居用(いよう)地域の緑色岩メランジュの地質を再検討した結果,次の事実が判明した.( a )おもに砂質変成岩とアプライト質花崗岩の小岩脈からなる岩体が跡倉層と接して広範囲に分布している.砂質変成岩などは木呂子変成作用を受けていない.( b )この砂質変成岩の南方に蛇紋岩が分布している.その南端部に変成トーナル岩,砂質変成岩,エピドート角閃岩の構造岩塊が認められる.( c )砂質変成岩の岩塊は大きさ約30m x 12m で,泥質変成岩を挟み,アプライト質花崗岩の岩脈を伴う.岩相は( a )の岩体のものに酷似している.類似の砂質変成岩の転石が変成トーナル岩の西端部付近に認められる.これらの砂質変成岩は明確に木呂子緑色岩メランジュ中の岩塊である.( d )変成トーナル岩はおもに角閃石と斜長石から構成されている.片理面が発達したマイロナイト的な岩石も見られるが,火成岩の組織が良く残存している細粒な岩石が多い.斜長石はソシューライト化され微細なゾイサイトに置換されている.斜長石は定方向に破断され,薄い石英‐斜長石脈が多数形成されている.全岩のK含有量は0.05%以下である.( e )蛇紋岩がアクチノ閃石岩や緑色岩に貫入していることが添付図左の地点 b, c で確認された.( f )木呂子緑色岩メランジュ南縁部には少量ではあるが薄層の赤色,黒色及び灰色の泥岩が緑色岩やチャートに挟まっている.泥岩(スレートあるいは千枚岩)は周辺のみかぶ緑色岩類に挟まっている泥質片岩よりも細粒である.
新データの重要性 跡倉層と接している砂質変成岩などからなる岩体が緑色岩メランジュの一員なのかあるいは独立の岩体なのか,判定しかねるところがあった.今回,砂質変成岩と花崗岩の小岩体が緑色岩メランジュの内部に見出されて,この問題は解消された.類似の変成岩と花崗岩が近接しているのは,偶然ではないと考えられる.蛇紋岩について,木呂子変成岩と断層で接することもあるが(添付図右下の断面図),居用地域では緑色岩などに貫入している.蛇紋岩は木呂子変成岩よりも少し遅れて上昇してきたと推定される.また,蛇紋岩の貫入以前に緑色岩メランジュの基本的地質構造はほぼ完成していたと考えられる.
テクトニクス 居用地域の変成トーナル岩,角閃岩相の砂質変成岩およびエピドート角閃岩の大岩体(添付図左)は,地殻中~深部から上昇してきた木呂子変成岩や蛇紋岩の捕獲岩であると推定される.この推定に基づくと,高圧型変成岩や蛇紋岩が上昇してきた地殻表層部には402Maの角閃岩や肥後‐阿武隈帯起源の変成岩や花崗岩などが分布していたと考えられる.肥後‐阿武隈帯の岩石は,その形成場から海洋プレートの方向に大きく移動して,古第三紀初期には高圧型変成岩や蛇紋岩の上昇場であった前弧域末端部付近に位置していたと想定される[1,2].肥後-阿武隈帯のこの移動は白亜紀後期のナップテクトニクスによると考えられる.
[1]小野,2011,日本地質学会第118年学術大会,R9-P9,p.196.
[2]小野,2013,日本地球惑星科学連合2013年大会予稿集,SMP43-P16.