日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG32] 惑星大気圏・電磁圏

2015年5月25日(月) 16:15 〜 18:00 A03 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*今村 剛(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)、関 華奈子(名古屋大学太陽地球環境研究所)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、高橋 芳幸(神戸大学大学院理学研究科)、深沢 圭一郎(京都大学学術情報メディアセンター)、中川 広務(東北大学 大学院理学研究科 地球物理学専攻太陽惑星空間物理学講座 惑星大気物理学分野)、座長:今村 剛(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)

17:00 〜 17:15

[PCG32-07] 赤外レーザヘテロダイン分光器を用いて得られる風速・温度場等の導出精度

中川 広務1佐川 英夫2青木 翔平3笠羽 康正1、*村田 功1高見 康介1 (1.東北大学、2.京都産業大学、3.イタリア宇宙航空機構)

キーワード:赤外, ヘテロダイン, 分光, 金星, 火星

我々東北大学では独自望遠鏡(60cmと1.8m鏡)によるハワイ・ハレアカラ山頂での惑星連続観測のために、波長分解能100万を越える超高分解能赤外レーザヘテロダイン分光器の開発を進めてきた。装置の特筆すべき特徴は、(i)7から10ミクロン帯においてシステム雑音温度3000Kを下回る低ノイズ・高感度を達成、(ii)デジタル分光器を赤外レーザヘテロダインとして初めて採用し高分解能・大ダイナミックレンジ・高い安定性を達成、(iii)常温駆動量子カスケードレーザを複数搭載し様々な分子を観測可能、が挙げられる。
その高い波長分解能は、(1)分子吸収プロファイルを十分に分解することができるため分子や温度の鉛直プロファイルの取得、(2)輝線から風速や温度を高精度計測、(3)微量成分や同位体などの高確度計測、を可能とする。加えて、サブミリ・ミリ波などの電波ヘテロダイン観測に比べて高空間分解能故に、金星や火星の全球的な空間分布を調べることも可能である。2014年9月にハワイ・ハレアカラ山頂に移設された東北大学60cm望遠鏡に実装され、11月には火星中間圏のCO2 non-LTE emissionの検出に成功した。2015年3月からの本格始動を間近に控え、本発表では本装置の性能・得られる物理パラメータの導出精度などについて、放射伝達モデルを用いて評価した結果をご報告する。用いた放射伝達モデルは、NICTで開発されたAtmospheric TeraHertz Radiation Analysis and SimUlation (AMATERASU)であり、ベースとなっているのはBaron et al. (2008)やMendrok et al. (2008)に記載のあるMicrowave Observation and LInes Estimation and REtrieval (MOLIERE)である。
R12 970.5472cm-1のCO2吸収プロファイルをリトリーバルすることで、火星・金星の風速・温度場を導出した。火星では地表から高度30kmまで、金星では高度65kmから95kmまでを温度10K以下の精度で導出可能であることがわかった。その鉛直分解能は10km程度と期待される。一方、風速においては、火星では高度10kmから30km付近を高度2層に分離導出でき、金星では高度75kmから90km付近を高度2層に分離導出できるものと期待される。その風速誤差は、積分時間を十分にとれば20m/s程度まで改善できることがわかった。また、CO2 non-LTE emissionからは、中間圏(火星では75km高度、金星では110km高度)の風速を精度10m/s程度で、温度を精度10K程度で導出することが可能である(関連発表参照)。これらより、下層大気と上層大気がどのように結合しているかを理解するのに重要な中間圏のダイナミクスやその時間変動擾乱を知ることができる。特に、火星では下層で発生する大気波動を介して下層から上層へ物質・運動量が上方輸送される様子や大気散逸への影響、金星では雲層での大気波動がどのように超高層に影響を及ぼすかなどの理解につながるものと期待される。
今年4月から8月にかけて金星観測実施、9月・12月から2月にかけて火星観測を実施し、各惑星のダイナミクスや微量成分の様々なスケールの時空間変動を明らかにしていく予定である。