日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2015年5月24日(日) 16:15 〜 18:00 304 (3F)

コンビーナ:*小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、座長:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)

17:45 〜 18:00

[SVC46-07] 溶岩チューブ洞窟と溶岩樹型の空洞内部に見る溶岩鍾乳と溶岩石筍から推定される溶岩の表面張力

*本多 力1 (1.NPO法人火山洞窟学会)

キーワード:溶岩チューブ, 火山洞窟, 表面張力, 溶岩樹型

[はじめに] 玄武岩溶岩流によって形成される溶岩チューブ洞窟や溶岩樹型の空洞内部にはよく溶岩鍾乳や溶岩石筍が観察される。 溶岩鍾乳とは天井や側壁に付着した溶岩層が重力により不安定となり規則的な凹凸を形成し天井や側壁から溶岩が垂れ下がる現象で、一方溶岩石筍とは溶岩の液滴が天井より落下し床部に堆積固化する現象である。 天井や側壁に生じる溶岩表面の凹凸の配列の規則性と溶岩液滴が床面に落下して堆積する液滴体積から溶岩の表面張力を推定してみた。

[溶岩鍾乳の配列ピッチによる表面張力推定]
 天井に付着した溶融溶岩層は重力により下側に膨らもうとするが、一方表面張力はそれを阻止しようとする。天井の溶融膜流体方程式に微小攪乱を与え、二次以上の項を省略すると線形方程式が得られ、その安定性限界条件から、液体層の波動の固有ピッチP=2π(γ/gρL)1/2が得られる。ここでγは溶岩の表面張力、gは重力加速度、ρLは溶岩の密度である。 したがって洞窟あるいは樹型内部の天井からたれ下がる溶岩鍾乳や側壁の凹凸のピッチPを測ることにより溶岩の表面張力γ= P2 L /4π2を求めることが出来る。各所の溶岩チューブ洞窟や溶岩樹型から得られるピッチはおおよそP=3~4cmであり、ρL=2.5g/cm3, g=980cm/s2を入れると表面張力としてγ=560~990 dyne/cmが得られる1,2)

[溶岩石筍を構成する落下液滴による表面張力推定] 溶岩液滴は天井の液体層から直接落下する場合もあるし天井からストローを形成した後そこから溶岩の液滴が落下する場合もある。 液滴はある長さになると落下しその落下する液滴の形状はほぼ同じである。この現象にも液滴の表面張力が関与しており、表面張力が液滴の重量に耐えられなくなると液滴は引きちぎられて液滴は落下し、落下した後上部では液滴が供給されさらに落下を繰り返して床部に多くの液滴が堆積する。これには液体の表面張力を計測する一般的な方法である「液滴重量法」を適用することが出来る。 液滴の質量をmとすると液滴を下に引く力はf1=mg(gは重力加速度)で、一方これに対抗して上に引き上げようとする表面張力はf2=2πrγである。ここでrは液滴の外形の半径、したがってf1=f2の時の液滴の重量がわかればγは計算できる。落下するときの液滴の長さをlとするとf1=mg=πr2L gで、ここでρLは液滴の密度である。玄武岩溶岩はおよそ2.5 g/cm3でありここでは一定値とした。この関係により落下した液滴の長さと半径から溶岩の表面張力、γ=rlρL g/2を得ることができる。ここでg=980cm/s2である、実際の観察による多くの値、たとえばr=0.2cm, l=2cmとするとγ=490 dyne/cm, r=0.25cm, l=4cmとするとγ=980 dyne/cmである。

[おわりに]  国内外各所の実際の観察によると、溶岩洞窟と樹型の天井と側壁の流体力学的不安定性と落下液滴から推定される溶岩の表面張力値はほぼ一致する。これはこの検討おデルが妥当であることを示していると思われる。 結論として、溶岩洞窟内の溶岩鍾乳・溶岩石筍の形成においては, 溶岩の表面張力が支配的な役割を演じていると言えそうである。 また推定された表面張力値はおおむね横山・飯塚3)によって実験室で計測された値の外挿の範囲にある。今後さらに他所(富士山青木が原、阿蘇米塚、キラウェア火山、セントへレンズ火山、メデイスン・レーク火山、クレーター・オブ・ザ・ムーン等)を含めた溶岩チューブ洞窟と溶岩樹型の調査(溶岩密度の影響等を含めて)を続行してゆきたい。

[参考文献]
1)T.Honda(2000):富士山溶岩樹型空洞内の溶岩鍾乳の形成過程の研究(The investigation on the formation process of the lava stalactite in the lava tree mold of Mt.Fuji)、日本洞窟学会第26回大会 研究発表要旨集p3
2)T. Honda, F.Martel, V. Bello,O.Lucas-Leclin(2014):A2-26:Investigation on the lava of 1998-2007 and lava tube caves in the Reunion Island, The 2014 fall meeting of the Japanese Society of Volcanology.p38
3) I.Yokoyama,S.Iizuka(1970):Technical Report,Hokkaido Univ. p57