日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG35] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、池田 昌之(静岡大学)

18:15 〜 19:30

[HCG35-P01] 石筍の年縞の特徴とその自動認定

*佐々木 華1石原 与四郎2吉村 和久3大西 由梨2 (1.福岡大学大学院理学研究科、2.福岡大学理学部、3.九州大学大学院理学研究院)

キーワード:年縞, 画像解析, 石筍, 時系列解析

鍾乳石(石筍)のMg/Ca比や炭素同位体記録からは,植生変動や太陽活動の周期性など,さまざまな古環境情報が得られている.また,石筍に認められる年縞は,このような古環境情報の年代のプロキシとしても用いられている.石筍の年縞は,主として石筍に取り込まれる不純物の濃度の年周期変化によって形成される.不純物としてフルボ酸などの蛍光物質を含む石筍では,紫外線を照射することで年縞を観察できる.このような石筍の年縞の形成には,堆積速度に関わる滴下水量,カルシウムイオン濃度,石筍の形態,洞窟大気中の二酸化炭素濃度などのほか,フルボ酸生成量に影響を与える環境変動などが深く関わると考えられる.しかしながらこれらの要素がそれぞれどのように作用して個々の年縞の厚さや蛍光強度が決まるのかは明らかになっていない点が多い.
 一方,年縞を年代のプロキシとした多くの研究では,年縞が明瞭でない場合に,層準的に近い年縞の層厚で堆積速度が見積もられている.また,石筍の年縞のカウントや層厚測定は基本的に顕微鏡下で行われており,再現性や客観性に問題を含むことが指摘される.そのため,より客観的かつ定量的に石筍の年縞の数や層厚の取得を試みること,そして層厚にどのような統計的特性があるのかを知ることは,石筍を用いた古環境研究を行う上では非常に重要である.本研究では,湖成縞状堆積物を対象に開発された葉理の時系列化手法(Sasaki et al., in press)を石筍の年縞に適用し,年縞の自動認識を行うとともに,これに基づいて層厚の統計的特徴を検討した.
 石筍の年縞は,九州大学大学院理学研究院反応分析化学研究室の蛍光顕微鏡を用いて撮影した.年縞の認定,計測では,Sasaki et al.(in press)の手法を適用した.すなわち,葉理画像を数値化し,(1)葉理の濃淡画像の平滑化と濃淡の変化率の検出,(2)指定Window内における濃淡の中央値の検出,(3)(1)の最大変化率,(2)の中央値を組み合わせて葉理境界の認定を行った.葉理の認定の後,葉理に垂直方向に見て明るい葉理と暗い葉理の数が入れ換わる部分を境界として層厚を計測し,時系列化した.
 解析の結果,湖成堆積物に用いられる年縞の自動認識手法が石筍の年縞にも適用可能であること,年縞にその形成過程に深く関わる可能性がある非対称な蛍光強度の変化が認められること,年縞層厚や年縞内の平均蛍光強度は短期間でも大きく変化し,その時系列には揺らぎが見られることが明らかになった.例えば,長崎県西海市の龍王洞内で得られた石筍で得られた層厚50 μm~200 μmの各年縞は下位から上位に向かって蛍光強度が強くなる傾向を示すとともに,対数正規分布もしくは分散の大きい正規分布で近似可能な層厚頻度分布を示す.また,年縞内の蛍光強度は層厚とは別に変動すること等が明らかになった.このうち,年縞の形成過程は洞窟内部の環境によって大きく変わる可能性があり,現在形成中の石筍の年縞を直接観測する必要があることが指摘される.

文献
Sasaki, H., Saito?Kato, M., Komatsubara, J. & Ishihara, Y., Application of a method for detecting lamina characteristics in sediments for time series analysis: an example using a soft X-ray image of varves from the Hiruzenbara Formation. Journal of Sedimentary Society of Japan, in press.