日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP43] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2015年5月24日(日) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*石井 和彦(大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学専攻)、河上 哲生(京都大学大学院理学研究科)

18:15 〜 19:30

[SMP43-P14] 変成岩中の放散虫化石と変成鉱物の結晶成長

*小野 晃

キーワード:放散虫化石, 変成温度, 再結晶作用

関東山地の寄居-小川地域の秩父‐三波川帯や跡倉ナップについて,泥質変成岩や珪質変成岩などをルーペで観察すると,白いリング状組織(放散虫化石の痕跡)が普通に認められる.観察対象を更に広げて,高遠‐塩尻地域の領家帯の泥質変成岩や伊那市長谷の泥質マイロナイトをルーペで調べてみると,これらにも放散虫化石の痕跡が一般的に存在する.この事実は3年前に報告されている[1].ここでは,その後の調査もふまえて,放散虫化石の薄片中における産状や変成度との関連性などを報告する. 
珪質スレート中の放散虫化石  チャート岩塊が寄居町谷津の跡倉ナップに認められる.チャートに挟まっている珪質泥岩をルーペで見ると,リング状組織が多数認められる.薄片を光学顕微鏡でみると,大きさが40~100μmほどの白色リングとその内部を埋める有色鉱物に富む泥質物質が確認できる(Figure A).内部の泥質物質に有色鉱物が少ない場合,白色リングは不明瞭になる.有色鉱物の量はリング中心部で少ないことがある.この場合,有色鉱物に富む泥質物質は幅広い暗色のリングを作ることになる.以上の様な微小の白色リング,暗色リングおよび有色鉱物に富む円形状組織は,秩父帯や領家帯の低変成度の細粒緻密な泥岩などにも一般的に認められ,それらは放散虫化石の痕跡と考えられる.
変成度と放散虫化石  領家帯東端部の高遠‐塩尻地域では東に向かって変成温度が上昇し,緑泥石‐黒雲母帯,黒雲母帯,シリマナイト帯に分帯されている.緑泥石‐黒雲母帯では保存良好な放散虫化石が確認されているが,それよりも高温地帯では放散虫化石を確認できていなかった.しかし,黒雲母帯高温部の泥質片岩の切断面をルーペで観察すると,放散虫化石の痕跡である白色リングを確認できる.Figure Bはそのusbマイクロスコープの画像であり,Figure Cは光学顕微鏡写真である.放散虫化石の痕跡は画像を少し遠方からいろいろの方向から眺めると認識しやすい.黒雲母片岩の石英,長石,黒雲母,白雲母はかなり粗粒であるが,放散虫化石の輪郭は残存している.放散虫化石の内部には微細な炭質物(石墨)が非常に多く,炭質物の分布状況が化石の輪郭を保存している.一方,シリマナイトゾーンでは変成作用中の物質移動が顕著であり,炭質物もかなり大きく結晶成長している.しかもカリ長石が大量に形成されて,岩石組織が大きく変化している.そのため放散虫化石の痕跡は破壊されて,ほとんど残存していない. 
変成鉱物の成長と放散虫化石  高遠のシリマナイトアイソグラッド付近の多くの泥質変成岩には,紅柱石,微細なシリマナイト(フィブロライト)とカリ長石が形成されている.大型のカリ長石の内部にはいろいろの鉱物が包有されている.包有物としては微小な炭質物が目立ち,それらはしばしば楕円形状に分布している.この形状は放散虫化石の形態を反映している可能性がある.
東秩父村居用の木呂子緑色岩メランジュには肥後‐阿武隈帯起源の変成岩の岩塊が存在する.岩塊には泥質の珪質変成岩も存在し,それをルーペで見ると,放散虫化石と推定される白色リングが大量に認められる.光学顕微鏡でみてみると,大きな粒径の鉱物はほぼすべて石英であり,その他に鑑定不能な微細な有色鉱物が石英の包有物として不規則に分布している.クロスニコルではリング状組織を確認しがたいが,オープンニコルでは微細な有色鉱物の多い部分がリング状や楕円形状に分布していることを認識できる.このリング状組織は石英が大きく成長していく際に石英に取り込まれたものと推定される.
放散虫化石の形状と変形作用  伊那市長谷中尾の三峰川沿いには細粒緻密な珪質や泥質の鹿塩マイロナイトが分布している.ウルトラマイロナイトと呼称されることもある細粒の岩石である.片理面とそれに直交する断面など複数の断面で放散虫化石の形状を観察してみたが,変形して著しく扁平になった放散虫化石は未だ見つかっていない.また,径1mm ほどの長石,電気石,ザクロ石(一粒子のみ)の斑状結晶を観察したところ,斑状結晶の割れ目を石英が満たしている組織は認められなかった.プレッシャーシャドウの発達も非常に悪い.非常に強い剪断作用を示唆するデータは未だ得られていない.
[1]小野,2012,日本地質学会第119年学術大会,R4-P-24, p.228.