12:30 〜 12:33
[BPT27-P01] 日立カンブリア系赤沢層の変成凝灰岩から見いだされた海綿動物状組織
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:日立カンブリア系, 変成凝灰岩, 海綿動物状組織, 球状体
阿武隈山地南端の日立変成地域にはカンブリア系が広く分布する(Tagiri et al., 2011).カンブリア系赤沢層は島弧火山岩を原岩とする変成岩からなる地層で,砂泥質岩や石灰岩を原岩とする変成岩はほとんどない.変成作用は地域の南東部ほど弱く,火山岩組織がよく残っている.火山砕屑岩起源の変成岩もみられ,一部には凝灰岩組織が観察できる.しかし,これまで化石の報告は無い.今回,赤沢層の変成凝灰岩中に海綿動物状組織が多数発見されたので,これらを報告し,化石の可能性を示す.
海綿動物状組織がみられる変成凝灰岩試料は,宮田川河口の河床礫や,鮎川上流の赤沢層露出域の沢の転石として発見された.変成度は緑色片岩相程度で,細粒で片理は局所的にあり,層理が認められる.変成鉱物は緑泥石―角閃石―緑簾石―アルバイト―石英で,白雲母と黒雲母が少量含まれる.
これらの変成凝灰岩には,直径2 mm前後の球状のものが集合した海綿動物状組織が観察される.球状体の直径は 5~0.5 mmである.球状体集合部は断面で層理面に平行に転倒した楕円状ないし眼球状の形で.層理面上では楕円形である.球状体集合部の大きさは層理面に垂直な断面で 0.5~4 cm程度,層理面に平行な面で 1~10 cm程度である.基質部は暗色で,球状体集合部内で球状体とその基質部の割合では,基質部の方が多い.1つの集合部では球状体の大きさはそろっていることが多い.また,球状体は集合部の縁に多い傾向がある.
球状体は珪質物質から構成されている.球状体には2~3層の球果層構造が観察されるものと,球体の一方が基質部につながっていて,球状層が開いているものとがある.この場合に,球体の形を保ったまま球状層が開いたものと,球体の形が崩れて開口部が大きくなり,球状体中心部が基質につながっているものとがある.また,球状体内部が数個の小室に細分されているものもある.球状体には長楕円形のものや柔軟に変形した形のものも多い.球状体が球状体集合部の縁部内面に配列しているものや,いくつかの球状体が接したり合体したりするもの,球状体が直線状に配列するものや,白色部が糸状になったものまである.球状体の外殻部は白色度が高く,微小石英結晶で構成されている.球状体の中心部は灰色で,微細な結晶質物質の集合である.球状体には,緑簾石と石英で置換されているものもある.石英結晶のみで構成される球状体もあり,この場合は球状体内の層構造はみえない.灰色の球状体が集合している部分では,球状体は石英質ではなく,少し軟らかい.その基質部は珪化されて硬く,スポンジ状の組織がみえる.これと同じスポンジ組織が別の変成凝灰岩試料の表面で認められる.この試料では風化によってスポンジ組織が表れている.
球状体内部や球状体集合部の周囲には針状のものがある.針の幅は1 mm以下,長さ 4 mm以下で,針の中心は灰色,縁部は球状体と同じ白色である.
数mmサイズの珪質球状体としてよく知られているものに魚卵状珪石がある.魚卵状珪石の球状体は3次元的に球状で,球体の一部が開放されることはない.凝灰岩中の球状体として火山豆石が知られている.この大きさは5 mmより大きいのが普通で,1 mm程度の微細な豆石は知られていない.流紋岩溶岩中の球果構造もよく知られているが,この構造は樹枝状結晶の放射状成長によって形成されるもので,凝灰岩中には同様な球果は知られていない.クリストバル石などが球状に集合して生じる球状組織もあるが,この場合は球体組織全体が石英多結晶の球体に再結晶するので,本報告のもののうち,石英結晶のみで構成される球状体に相当する.
報告したものは海綿動物の珪化した化石と考えると観察された組織の多くが説明可能である.海綿動物の珪酸とコラーゲンで作られたスポンジ組織や細胞が化石化すると同時に,海綿動物にある無数の小孔や大孔が珪酸分や火山灰物質で充填されて生じた組織とみることができる.もしこの考えが正しいなら,これらの岩石にはカンブリア紀の他の動物化石が含まれている可能性がある.
文献
Tagiri, M., Dunkley, D.J., Adachi, T., Hiroi, Y. and Fanning, C.M., 2011, SHRIMP dating of magmatism in the Hitachi metamorphic terrane, Abukuma belt, Japan: evidence for a Cambrian volcanic arc. Island Arc, 20, 259-279.
海綿動物状組織がみられる変成凝灰岩試料は,宮田川河口の河床礫や,鮎川上流の赤沢層露出域の沢の転石として発見された.変成度は緑色片岩相程度で,細粒で片理は局所的にあり,層理が認められる.変成鉱物は緑泥石―角閃石―緑簾石―アルバイト―石英で,白雲母と黒雲母が少量含まれる.
これらの変成凝灰岩には,直径2 mm前後の球状のものが集合した海綿動物状組織が観察される.球状体の直径は 5~0.5 mmである.球状体集合部は断面で層理面に平行に転倒した楕円状ないし眼球状の形で.層理面上では楕円形である.球状体集合部の大きさは層理面に垂直な断面で 0.5~4 cm程度,層理面に平行な面で 1~10 cm程度である.基質部は暗色で,球状体集合部内で球状体とその基質部の割合では,基質部の方が多い.1つの集合部では球状体の大きさはそろっていることが多い.また,球状体は集合部の縁に多い傾向がある.
球状体は珪質物質から構成されている.球状体には2~3層の球果層構造が観察されるものと,球体の一方が基質部につながっていて,球状層が開いているものとがある.この場合に,球体の形を保ったまま球状層が開いたものと,球体の形が崩れて開口部が大きくなり,球状体中心部が基質につながっているものとがある.また,球状体内部が数個の小室に細分されているものもある.球状体には長楕円形のものや柔軟に変形した形のものも多い.球状体が球状体集合部の縁部内面に配列しているものや,いくつかの球状体が接したり合体したりするもの,球状体が直線状に配列するものや,白色部が糸状になったものまである.球状体の外殻部は白色度が高く,微小石英結晶で構成されている.球状体の中心部は灰色で,微細な結晶質物質の集合である.球状体には,緑簾石と石英で置換されているものもある.石英結晶のみで構成される球状体もあり,この場合は球状体内の層構造はみえない.灰色の球状体が集合している部分では,球状体は石英質ではなく,少し軟らかい.その基質部は珪化されて硬く,スポンジ状の組織がみえる.これと同じスポンジ組織が別の変成凝灰岩試料の表面で認められる.この試料では風化によってスポンジ組織が表れている.
球状体内部や球状体集合部の周囲には針状のものがある.針の幅は1 mm以下,長さ 4 mm以下で,針の中心は灰色,縁部は球状体と同じ白色である.
数mmサイズの珪質球状体としてよく知られているものに魚卵状珪石がある.魚卵状珪石の球状体は3次元的に球状で,球体の一部が開放されることはない.凝灰岩中の球状体として火山豆石が知られている.この大きさは5 mmより大きいのが普通で,1 mm程度の微細な豆石は知られていない.流紋岩溶岩中の球果構造もよく知られているが,この構造は樹枝状結晶の放射状成長によって形成されるもので,凝灰岩中には同様な球果は知られていない.クリストバル石などが球状に集合して生じる球状組織もあるが,この場合は球体組織全体が石英多結晶の球体に再結晶するので,本報告のもののうち,石英結晶のみで構成される球状体に相当する.
報告したものは海綿動物の珪化した化石と考えると観察された組織の多くが説明可能である.海綿動物の珪酸とコラーゲンで作られたスポンジ組織や細胞が化石化すると同時に,海綿動物にある無数の小孔や大孔が珪酸分や火山灰物質で充填されて生じた組織とみることができる.もしこの考えが正しいなら,これらの岩石にはカンブリア紀の他の動物化石が含まれている可能性がある.
文献
Tagiri, M., Dunkley, D.J., Adachi, T., Hiroi, Y. and Fanning, C.M., 2011, SHRIMP dating of magmatism in the Hitachi metamorphic terrane, Abukuma belt, Japan: evidence for a Cambrian volcanic arc. Island Arc, 20, 259-279.