日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

2015年5月28日(木) 16:15 〜 18:00 304 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:森 俊哉(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)、寺田 暁彦(東京工業大学火山流体研究センター)

16:45 〜 17:00

[SVC45-25] 噴煙中の水素の同位体組成を利用した桜島における遠隔噴気温度測定

*角皆 潤1程 林1池谷 康祐1小松 大祐1中川 書子1篠原 宏志2 (1.名古屋大学環境学研究科、2.産業技術総合研究所地質情報研究部門)

キーワード:火山ガス, プルーム, 水素, 安定同位体, 遠隔温度測定, 桜島

はじめに
 火山の噴気温度の絶対値やその時間変化は、火山活動の現状や山体内部における脱ガス過程に関する重要な指標となる。しかし、活火山の噴気孔における直接測定は危険で、実現が難しいことが多い。また赤外放射を利用した遠隔測定は、観測距離が100 mを超えると正確な温度測定は困難になり、また火山灰で視界が遮られると測定不能になる。
 そこで筆者らは、噴気ガス中に含まれている水素分子(H2)と主成分である水蒸気(H2O)の間の水素同位体(1HおよびD)交換反応の同位体分別係数が温度とともに大きく変化するという特性に着目し、噴煙(プルーム)中のH2のD/1H比から噴気中のH2のD/1H比を推定してこれを温度に換算する遠隔温度測定法(HIReTS: Hydrogen Isotope Remote Temperature Sensing)を考案した(Tsunogai et al., 2011)。これまで、樽前山A火口(HIReTS温度 = 590℃)や阿蘇中岳(同900℃前後)、薩摩硫黄島硫黄岳(同810℃)と言った噴気孔近傍(噴気孔から数100 m以内)までアクセス可能な火山で、噴気温度の遠隔測定を実現してきた。
 ただし、HIReTS法では、一般対流圏大気(約0.5 ppm)の少なくとも2倍以上のH2濃度のプルーム試料を採取しないと、有意な精度で噴気温度を決定することが出来ない。火口から放出されたプルームは、大気中をある程度上昇した後に風下側に水平に広がっていく。火口は火山の山頂付近に位置しているのが普通なので、桜島(鹿児島県)のように火口から半径2 km以内に立ち入ることの出来ない火山でこのレベルのプルーム試料を採取するには、大気中を飛行して試料を採取する必要がある。そこで本研究では、航空機を用いてプルーム試料の採取を行い、HIReTS法を利用した桜島の噴気温度遠隔測定に挑戦した。
観測
 桜島における観測は、セスナ172型を用いて、2014年9月10日、9月11日、12月9日、2015年1月14日の計4回実施した。火口から風下側に3 km前後離れた場所で、高度800 mから1900 m付近に流れて来るプルームの断面を横切るようなフライトを多数回繰り返した。また、プルームの中に入って、プルームとともに移動するフライトも実施した。フライト中は、左翼前面からテフロン製チューブを使って毎分2 L前後の流量で機外の大気をキャビン内に取り込み、SO2の濃度を定電位電解式センサで連続モニタリングした。また予め真空に引いた内容積1 Lのガラス製容器をセンサの上流部で流路を分岐させて取り付け、SO2濃度が極大値を示す時を狙ってコックを開放して大気圧までプルーム試料を採取した。1回のフライトで10-20 個程度のプルーム試料を採取した。
結果・考察
 試験的に運用した初回のフライト以外は、どのフライトでもH2濃度が1 ppmを超える試料の採取に成功し、最高濃度は2.1 ppmを超えた。桜島レベルの活動度の火山であれば、火口から直線で3 km以上離れていても、HIReTS法で温度測定出来ることが証明された。また、各フライトともプルーム中のH2濃度が高くなるほどD/1H比が低下する傾向がみとめられ、噴気由来のH2が様々な割合で一般大気中のH2と混合していることを示している。また、桜島には南岳山頂火口と昭和火口の主に二箇所の火口が存在するにも関わらず、プルーム中のH2のD/1H比とH2濃度の間の混合線は一本しか確認出来なかった。これは、①両火口の噴気温度がほぼ一致している、もしくは、②一方(おそらく昭和火口)のH2放出量が、他方(おそらく南岳山頂火口)のH2放出量を大きく上回っていた、ことを示すものと考えられる。
 観測されたプルーム試料中のH2のD/1H比に対する一般大気由来のH2の寄与を補正することで、噴気H2のδD値を求めたところ、2014年9月で-134.6±6.5 ‰(vs. VSMOW)となった。これとマグマ水の平均的なδD値を仮定して求めたHIReTS温度は、1050±80 ℃となった。これは桜島溶岩の融点か、それをも上回るきわめて高い温度であり、マグマがごく近傍まで上昇していることを示唆する。
謝辞
本研究は、科研費挑戦的萌芽研究(研究課題番号:26610181)の助成を受けて実現した。また観測では、風早竜之介博士(産総研)と森俊哉博士(東大地殻)にお世話になりました。