18:15 〜 19:30
[MIS25-P15] 高密度群列掘削調査による津波堆積物の対比: 岩手県山田町小谷鳥を例として
キーワード:津波堆積物, 高密度群列掘削調査, 三陸海岸, 津波堆積物の対比
・はじめに
2011年東北地方太平洋沖地震・津波以降,国内における津波堆積物調査の必要性は高まり,学術的にも社会的にも注目が集まっている.その一方で津波堆積物認定に関しては,確実な認定基準は無く,複数の状況証拠をもとに議論しているのが現状である(後藤・重野.2008;澤井,2012).そのような中,津波堆積物の認定・対比には露頭もしくは掘削試料の記載的事項(津波堆積物の構成物,堆積構造,連続性)が非常に重要なものと考えられる.しかし,地下に埋没している過去の津波堆積物に関しては,多くの場合はボーリング調査などの掘削調査が用いられ,層相や年代値から各津波堆積物の認定・対比が行われる.しかし,数10-数100 m離れた地点の地層を対比するにはいくつかの仮定が含まれており,地層の対比根拠が希薄な場合も少なくない.特に認定された津波堆積物の一つ一つがそれぞれ過去の津波を発生させる現象に対応するため,その過大・過小評価は結果的に津波の数・頻度といった評価に直結する.そこで,本研究ではすでにトレンチ調査や露頭調査で津波堆積物が複数認められている岩手県山田町小谷鳥において,高密度の群列掘削調査を行い,それらに基づきトレンチ調査で認められた津波堆積物を追跡した.また,高密度の掘削試料情報を用いて,掘削間隔を変えた場合に津波堆積物の連続性・対比がどのように変化するか検討した.
・調査地域
調査地点である岩手県山田町小谷鳥は南に開いた溺れ谷状の地形を示す狭い沖積低地で,2011年の津波の遡上高は約30 mに達する(原口・岩松,2011).その他には1933年昭和三陸津波,1896年明治三陸津波が侵入している(東大地震研究所,1934;卯花・太田,1988).また本地域に残る伝承によると,1611年慶長三陸津波が小谷鳥に侵入したとされている(今村,1934).小谷鳥では平成24・25年度文部科学省委託研究「東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の調査観測」(受託者代表: 東京大学地震研究所)によって実施されたトレンチ調査(小谷鳥トレンチ)にて最近4000年間で2011年津波堆積物を含めて11層の津波堆積物が認定されている(文部科学省ほか,2013).
・調査方法
すでに調査が行われた小谷鳥トレンチから南側(海側)に向かってハンディジオスライサー(以後,HGS)(中田・島崎,1997;高田ほか,2002)を用いて,2.5 m間隔で距離110 m間の掘削を行った.HGSでは個々に長さが若干異なるものの,長さ約1 m分のコア試料を採取し,写真撮影・剥ぎ取り・試料採取を実施した.地表から深度1 mまでには小谷鳥トレンチ(文部科学省ほか,2013)で津波堆積物と認められたE1-E4堆積物(E1は2011年津波堆積物)が確認され,これらを追跡対象とした.
・結果・考察
本掘削調査からは,E1-E4堆積物が測線の大部分で認められた.加えて,小谷鳥トレンチ付近では断片的であるE2堆積物が下流側で明瞭かつ連続的に確認できた.さらにE2堆積物の上位にも津波堆積物らしき新たなイベント堆積物(E1.5堆積物)が認められた.一方,E1堆積物は田畑の区画に制約を受けた層厚変化を示し,津波前の田畑の起伏を埋積するように堆積している.E4堆積物は最下流部で分布が途絶えた.また,耕作土も明瞭に区別でき,田畑の整備に伴う改変の少ない部分にて上記で示した新期のE1.5,E2堆積物が保存されていることがわかった.
2.5 m間隔で掘削した試料情報に基づき,掘削間隔を5 m,10 m,20 m,50 mと変化させて,2.5 m間隔と同様に地層対比を行った.その結果,5 m間隔では,2.5 m間隔と同程度の確度で地層の対比が可能であった.連続性に乏しいE1.5堆積物も認定可能であった.10 m間隔では,地層の保存状態や撹乱の程度により対比が困難な部分が存在するが,E1.5堆積物以外はある程度の確度を持って対比可能であった.また,2.5 m,5 m間隔で認められる各津波堆積物の分布標高のばらつきが10 m間隔では小さくなり,海側へ向かって一様に分布標高が減じるようにみえる.これは10 m間隔ではある津波堆積物の一般傾向を抽出していると考えられる.20 m,50 m間隔でも地層対比に大きな問題はなく,連続性の良いE1,E3,E4堆積物は掘削間隔が小さな場合と地層対比に大きな違いはなかった.ただし,対比する際の選択肢が少ない,また側方の情報が少ないために,当てはめ的に地層を対比しているだけであり対比の確度は非常に低い.
・まとめ
本発表では,試験的に掘削間隔を変えて津波堆積物の対比を行った.この結果が一般的な傾向なのかどうかは他地点での情報が不可欠であるが,掘削間隔を変えた場合の地層対比の問題点が明らかとなった.考察で述べた内容は地層対比を行う上では自明のことであるが,現実の情報をもとに議論することは今後の津波堆積物研究を進めていく上で重要な試みだと思われる.
2011年東北地方太平洋沖地震・津波以降,国内における津波堆積物調査の必要性は高まり,学術的にも社会的にも注目が集まっている.その一方で津波堆積物認定に関しては,確実な認定基準は無く,複数の状況証拠をもとに議論しているのが現状である(後藤・重野.2008;澤井,2012).そのような中,津波堆積物の認定・対比には露頭もしくは掘削試料の記載的事項(津波堆積物の構成物,堆積構造,連続性)が非常に重要なものと考えられる.しかし,地下に埋没している過去の津波堆積物に関しては,多くの場合はボーリング調査などの掘削調査が用いられ,層相や年代値から各津波堆積物の認定・対比が行われる.しかし,数10-数100 m離れた地点の地層を対比するにはいくつかの仮定が含まれており,地層の対比根拠が希薄な場合も少なくない.特に認定された津波堆積物の一つ一つがそれぞれ過去の津波を発生させる現象に対応するため,その過大・過小評価は結果的に津波の数・頻度といった評価に直結する.そこで,本研究ではすでにトレンチ調査や露頭調査で津波堆積物が複数認められている岩手県山田町小谷鳥において,高密度の群列掘削調査を行い,それらに基づきトレンチ調査で認められた津波堆積物を追跡した.また,高密度の掘削試料情報を用いて,掘削間隔を変えた場合に津波堆積物の連続性・対比がどのように変化するか検討した.
・調査地域
調査地点である岩手県山田町小谷鳥は南に開いた溺れ谷状の地形を示す狭い沖積低地で,2011年の津波の遡上高は約30 mに達する(原口・岩松,2011).その他には1933年昭和三陸津波,1896年明治三陸津波が侵入している(東大地震研究所,1934;卯花・太田,1988).また本地域に残る伝承によると,1611年慶長三陸津波が小谷鳥に侵入したとされている(今村,1934).小谷鳥では平成24・25年度文部科学省委託研究「東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の調査観測」(受託者代表: 東京大学地震研究所)によって実施されたトレンチ調査(小谷鳥トレンチ)にて最近4000年間で2011年津波堆積物を含めて11層の津波堆積物が認定されている(文部科学省ほか,2013).
・調査方法
すでに調査が行われた小谷鳥トレンチから南側(海側)に向かってハンディジオスライサー(以後,HGS)(中田・島崎,1997;高田ほか,2002)を用いて,2.5 m間隔で距離110 m間の掘削を行った.HGSでは個々に長さが若干異なるものの,長さ約1 m分のコア試料を採取し,写真撮影・剥ぎ取り・試料採取を実施した.地表から深度1 mまでには小谷鳥トレンチ(文部科学省ほか,2013)で津波堆積物と認められたE1-E4堆積物(E1は2011年津波堆積物)が確認され,これらを追跡対象とした.
・結果・考察
本掘削調査からは,E1-E4堆積物が測線の大部分で認められた.加えて,小谷鳥トレンチ付近では断片的であるE2堆積物が下流側で明瞭かつ連続的に確認できた.さらにE2堆積物の上位にも津波堆積物らしき新たなイベント堆積物(E1.5堆積物)が認められた.一方,E1堆積物は田畑の区画に制約を受けた層厚変化を示し,津波前の田畑の起伏を埋積するように堆積している.E4堆積物は最下流部で分布が途絶えた.また,耕作土も明瞭に区別でき,田畑の整備に伴う改変の少ない部分にて上記で示した新期のE1.5,E2堆積物が保存されていることがわかった.
2.5 m間隔で掘削した試料情報に基づき,掘削間隔を5 m,10 m,20 m,50 mと変化させて,2.5 m間隔と同様に地層対比を行った.その結果,5 m間隔では,2.5 m間隔と同程度の確度で地層の対比が可能であった.連続性に乏しいE1.5堆積物も認定可能であった.10 m間隔では,地層の保存状態や撹乱の程度により対比が困難な部分が存在するが,E1.5堆積物以外はある程度の確度を持って対比可能であった.また,2.5 m,5 m間隔で認められる各津波堆積物の分布標高のばらつきが10 m間隔では小さくなり,海側へ向かって一様に分布標高が減じるようにみえる.これは10 m間隔ではある津波堆積物の一般傾向を抽出していると考えられる.20 m,50 m間隔でも地層対比に大きな問題はなく,連続性の良いE1,E3,E4堆積物は掘削間隔が小さな場合と地層対比に大きな違いはなかった.ただし,対比する際の選択肢が少ない,また側方の情報が少ないために,当てはめ的に地層を対比しているだけであり対比の確度は非常に低い.
・まとめ
本発表では,試験的に掘削間隔を変えて津波堆積物の対比を行った.この結果が一般的な傾向なのかどうかは他地点での情報が不可欠であるが,掘削間隔を変えた場合の地層対比の問題点が明らかとなった.考察で述べた内容は地層対比を行う上では自明のことであるが,現実の情報をもとに議論することは今後の津波堆積物研究を進めていく上で重要な試みだと思われる.