日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS26] 地震波伝播:理論と応用

2015年5月26日(火) 14:15 〜 16:00 103 (1F)

コンビーナ:*齊藤 竜彦(独立行政法人 防災科学技術研究所)、中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、松島 潤(東京大学大学院)、西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(株式会社地球科学総合研究所)、座長:志藤 あずさ(京都大学)、武村 俊介(横浜市立大学)

14:45 〜 15:00

[SSS26-14] 見掛けP波及びS波輻射特性の周波数・距離変化

*小林 学1武村 俊介1吉本 和生1 (1.横浜市立大学)

キーワード:輻射特性, 実体波, 地震伝播, 地震波散乱

はじめに
地震時に震源断層から輻射されるS波は,断層面の走向とそれに直交する方向で大きく,45度ずれた方向で小さい4象限型の振幅の分布となることが予想される.しかし,観測された地震波形を解析すると,1 Hz以下の低周波数では4象限型の最大振幅分布になるが,5 Hz以上の高周波数ではほぼ等方的になることが指摘されている(例えば,Liu and Helmberger, 1985; Takemura et al., 2009).近年,高感度地震観測網Hi-netの良質な地震波形記録により,P波についても高周波数において振幅分布(見掛け輻射特性)が崩れることが報告されている(小林・他,2014,日本地震学会秋季大会).本研究では,小林・他(2014)の手法をS波にも適応し,見掛けP波及びS波輻射特性の周波数・距離変化を解析から明らかにし,P波とS波の伝播特性の相違を調べた.

データと解析手法
解析には,高感度地震観測網Hi-netで得られた中国地方の地殻内で発生した地震(横ずれ型の10イベント,震源距離0-150 km)の755の速度波形を用いた.小林・他(2014)による手法を用い,Coda規格化法(e.g., Yoshimoto et al., 1993)で求めたP波及びS波の平均的な距離減衰のトレンドからの振幅のばらつきの方位依存性の精査によって見掛け輻射特性を評価した.ダブルカップル震源モデルから予測される輻射特性係数の方位依存性を理論予測とし,この理論予測と観測振幅の方位依存性との相関係数をもとに見掛け輻射特性の崩れを定量的に調べた.解析周波数帯は0.5-1 Hz,1-2 H,2-4 Hz,4-8 Hz,8-16 Hzとした.

見掛け輻射特性の周波数・距離変化
P波,S波とも見掛け輻射特性は0.5-1 Hz以下の低周波数において4象限型を保持しているが,周波数の増大に伴い単調に4象限型から崩れることが明らかになった.4-8 Hz以下の帯域では,見掛け輻射特性は震源距離の増大に伴い単調に崩れることから,伝播経路中の短波長不均質構造による地震波散乱の影響が示唆された.一方で,8-16 Hzでは見掛け輻射特性は震源距離40 kmにおいてすでに大きく崩れている.このことから高周波数においては,震源近傍の不均質構造や震源過程の複雑さが見掛け輻射特性の崩れに寄与していることが示唆された.
見掛け輻射特性の4象限型からの崩れは,震源距離・周波数帯によらず,常にS波のほうがP波より大きかった.例えば,4-8 Hzにおける理論予測との相関係数はP波とS波でそれぞれ0.37と0.23であった.また,震源近傍に対して推定したこの相関係数は,P波では低周波数において1程度の値を2-4 Hzまで保持するのに対して,S波ではP波よりも有意に小さい値が求まる(例えば2-4 Hzでの比較でそれぞれ0.75と0.55). 以上の結果は,地殻内の不均質性や震源破壊過程の複雑さの影響がP波とS波で異なる可能性を示している.
発表では,見掛け輻射特性の周波数・距離変化の特徴についてより詳しく紹介し,P波とS波の伝播特性の相違や地殻内の不均質性について議論する.

謝辞
防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-netおよび広帯域地震観測網F-netの波形記録を使用させていただきました.また,F-netのCMT解と気象庁の初動発震機構解を使用させていただきました.