日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS25] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 101A (1F)

コンビーナ:*千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)、座長:八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、小森 次郎(帝京平成大学)

09:15 〜 09:30

[HDS25-02] 山梨県早川町の七面山崩壊による平安時代後期の堰き止め湖沼堆積物

*苅谷 愛彦1 (1.専修大学)

キーワード:深層崩壊, 地すべりダム, 大型植物遺体, 14C年代, 永長地震

南アルプス東部の七面山崩壊地は,七面山(山梨県早川町;山頂は北緯35.3704度, 東経138.3504度,標高1983 m)の東面に生じた広大な岩盤地すべり地である。崩壊地の周辺には岩盤の重力変形を示す地層の変形・切断や,それらの地表表現である線状凹地が発達する(千木良1995「風化と崩壊」)。七面山崩壊地は糸魚川-静岡構造線に沿っており,地質はおおむね西に傾く四万十帯瀬戸川層群の堆積岩類からなる。古文書の解読により,七面山崩壊はAD 1600年代にはすでに存在していたとされる(永井・中村2000 地すべり学会誌)が,崩壊の開始時期や発達過程に関する情報はきわめて少ない。
演者は七面山の崩壊によると考えられる本流(富士川水系春木川)の堰き止め湖沼堆積物を見いだした。この湖沼堆積物は七面山崩壊地と本流との合流点(標高約645 m前後)より,本流をやや遡上した右岸側(標高約670 m)にわずかに露出する。下限は現河床下にあるため層厚は不明であるが,数10 cm以上ある。同堆積物は主にシルト・砂からなり,多数の大型植物遺体を含む。また厚さ4 m前後の支流性土石流堆積物(3ユニット)に不整合で覆われる。そこで,立木のまま埋没した湖沼堆積物中の直立樹幹2本について,それぞれ最外部分を微量採取して14C年代を測定した。また上位の土石流堆積物のうち湖沼堆積物を覆う最下位のユニット中の木片も年代測定した。この結果,直立樹幹からcal AD 1057-1075・1153-1225・1231-1245 とcal AD 1034-1164を,土石流堆積物中の木片からcal AD 1438-1514・1598-1618を得た(2σ)。
これらの年代や堆積物の分布,地形の状況からみて,直立樹幹が枯死したのはAD 1055-1160 頃であり,少なくともその期間に堰き止め湖沼が存在したと考えられる。この時代かそれ以前に,堰き止め湖を形成する程度の崩壊物質を生産する大規模な崩壊が七面山東面で生じた可能性がある。また湖沼が消滅した後,AD 1440-1620ころに春木川右岸の支谷で土石流が起きたとみられる。これらの崩壊や土石流が何を誘因としたのかは不明であるが,前者についてはAD 1096(永長元年)に南海・駿河トラフを震源として発生した巨大地震(推定M=8.0-8.5)が有力な候補のひとつである。