日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候・生態系変動

2015年5月27日(水) 14:15 〜 16:00 301A (3F)

コンビーナ:*池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、野木 義史(国立極地研究所)、大島 慶一郎(北海道大学低温科学研究所)、座長:池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)

14:30 〜 14:45

[MIS21-07] 南極沿岸ポリニヤにおける海氷生産量の変動

*田村 岳史1大島 慶一郎2フレーザー アレックス2ウィリアムズ ガイ3 (1.国立極地研究所、2.北大・低温研、3.ACE CRC)

キーワード:海氷生産, 沿岸ポリニヤ, 年変動, 南極, リモートセンシング

地球規模の海洋の熱塩・物質循環を駆動しているのは、高緯度域で起こっている高密度水の沈み込みであり、これによって大気と海洋深層との熱・物質交換が行われている。世界で最も重い水である南極底層水の形成に対して、南極沿岸ポリニヤにおける多量の海氷生産が重要な役割を果たしていると考えられている。南極沿岸ポリニヤは主に風や海流によって海氷が運び去られることが原因で形成され、そのほとんどの領域は新生氷か薄氷で覆われている。冬季において、薄氷域での大気に対する熱損失は他の一般の海氷域と比べて1~2オーダー大きく、すなわち沿岸ポリニヤは海氷生産工場とも言える。しかしながら、現場観測が難しい海域であるため、南極沿岸ポリニヤでの海氷生産の変動について定量的な議論は行われてこなかった。
 南極沿岸ポリニヤの海氷生産量の変動は、南極沿岸域で生成される高密度陸棚水の変動の理解に対して有益な情報となりうる。ロス海とオーストラリア南極海盆域において、高密度水と底層水の淡水化が近年報告されている。海氷生産量は、高密度水の形成に影響を与えうるキーパラメーターの一つである。また、海氷生産に伴うブライン排出が、棚氷下へのCDWの侵入を抑制し、棚氷の底面融解を抑制する効果があると考えられている。本研究の目的は、全南大洋における各沿岸ポリニヤでの海氷生産量の変動を明らかにすることである。
 現時点では、衛星データを用いて沿岸ポリニヤを検出し、表面熱フラックスを計算することによって海氷生産量を見積もるのが、一つの有効な方法である。海氷生産率を見積もっている過去のほとんどの研究はリージョナルな研究である。我々のこれまでの研究は、衛星マイクロ波放射計のデータを用いて薄氷域の氷厚を検出して熱収支計算を行い、その熱損失から、主に海氷生成に使われるとの仮定の下、海氷生産量を見積もっている。薄氷厚アルゴリズムの開発およびそれを用いた年変動の研究にあたって、これらの研究ではSpecial Sensor Microwave Imager(SSM/I)輝度温度データ(1992年~現在)を主に使用した。より解像度の高いAdvanced Microwave Scanning Radiometer-EOS (AMSR-E)データは2003年以降のデータしか使用できない。より長い年変動の議論を行うため、本研究はSSM/Iデータを使用する。
 海氷生産量の絶対値は、アザラシによるバイオロギングのデータから求められた海氷生産量を用いて検証した。海氷生産量の年変動は気温や沖向き風のそれよりもポリニヤ面積のそれと非常に良い相関があった。ロス海沿岸ポリニヤは、ロス棚氷から割れだした巨大氷山の影響によって海氷生産量が激減するイベントがあったが、その後回復傾向にある。メルツポリニヤは、メルツ氷河崩壊の影響によって海氷生産量が激減するイベントがあり、現在まで毎年、過去最低記録を更新し続けている。