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[G03-06] 『かるた』を用いたアウトリーチ活動―月惑星の縦孔・地下空洞探査計画『UZUME計画』―
キーワード:月惑星の縦孔・地下空洞探査, UZUME, 市民参加, サイエンスコミュニケーション, アウトリーチ, かるた
私たちは、『かるた』を用いて月の縦孔・地下空洞探査計画『UZUME計画』のアウトリーチを行っている。本稿では、本計画の意義とともに、アウトリーチにおける『かるた』の有用性を紹介する。
1.月の縦孔・地下空洞探査計画『UZUME計画』
2009年、春山ほかは、月周回衛星「かぐや」(SELENE)の観測で、人類史上初めて月に3つの巨大な縦孔(直径:約50m~100m)を発見した1)。これらの縦孔の底には、巨大な地下空洞が横方向に広がっていると推測され、富士山や済州島、ハワイなどにある溶岩の流れたあとに残った空洞(溶岩チューブ)の一部が陥没してできた天窓と同様だと考えられている。現在、私たちは月惑星の縦孔・地下空洞探査に関する研究を行っている。この探査計画はUnprecedented Zipangu Underworld of the Moon (Mars) Exploration (古今未曾有の日本の月(火星)地下世界探査))の頭文字をとり、UZUME計画と命名されている。
月惑星の縦孔は、主に次の4つの科学的意義がある場所である。
1) 月-地球系への物質供給の把握:月は過去に巨大衝突を経験したが、月の縦孔・地下空洞は、その衝突の記録を新鮮な状態で残し、縦孔露頭や地下空洞内の調査で水の供給源や過去の太陽活動の調査ができる場所である。
2)月の内部構造の把握:地下空洞内の放射線物質や月の核やマントル構造、溶融核発現の有無に関する調査ができる場所である。
3)月面有人拠点の建設地候補:月の縦孔・地下空洞は月面とは異なり、放射線や紫外線を遮り、かつ隕石や飛散物の衝突の危険性も低い。また、温度も安定しており、高い密封性、堅固な床面、無塵空間である等、人類が将来、月に有人活動拠点を建設する場合に、月面より安全で有利な場所である。
4) 地球外生命探査:縦孔に続く地下空洞は、宇宙放射線や紫外線のあたらない環境であり、生命が発生し、独自に生き延び、進化している可能性も考えられる。主に、火星における地下水・生命探査を行うにあたり適した場所である。
上記の達成に向けて、日本が得意とするロボット・宇宙工学などの優れた技術を最大限に活用し、更なる工学の発展に努めたい。
2.「かるた」を用いたUZUME計画のアウトリーチ
私たちは、UZUME計画の実現にはアウトリーチが重要であると考え、次の3点を意識し、アウトリーチの企画を行っている。
1) UZUME計画への理解:一般の人々から共感を得、探査の意義・内容を理解してもらうために、わかりやすく伝えること。
2) 科学的な興味喚起:とくに、若者に最先端の科学に対して興味や関心をもってもらうための、きっかけ作りや場の演出。
3) 一般の方々を参画させるしかけ作り:アウトリーチを受けた人々をその場で終わらせない。その人から発信し、周囲に波及させるための、印象に残る要素を盛り込むこと。
多くの人々は、はじめは本探査に無関心であろう。そのため、UZUME計画への関心と感動を創出するために、探査の面白い点・ワクワクする点・探査を応援したいと思わせるしかけ等、感動の要素を意図的に盛り込む必要があると考えた2)。そこで、UZUME計画のみならず月についてよく知らない子供から大人も対象に、無理なく本研究に興味を抱いてもらえるサイエンスコミュニケーションのツールの1つとして「かるた」が有効ではないかと考え、「月の縦孔探査かるた」を開発した。かるたを用いる利点は次の3点である。
1) 読札:短い言葉ではあるが、計画の特徴を凝縮した文章で表現することができる。
2) 絵札:読札に適合した選ばれた1枚の写真やイラストを絵札にすることで、「百聞は一見にしかず」の効果を発揮し、ビジュアルを通して研究に興味をもってもらうきっかけを与えることができる。
3) かるた体験:計画への理解が深まった体験者から、本計画に対する率直なコメントを得ることができる。
かるたは、2014年の宇宙航空研究開発機構相模原キャンパスの特別公開および宇宙博2014で試作案をポスター展示した。かるた試作品は同年10月に完成した。同年11月、12月、2015年1月、2月には、神奈川県青少年センター主催の子どもサイエンスフェスティバル各4市の大会に「かるた大会~月のあなを探査しよう」として出展した。アンケート結果から、満足度も高く、月の縦孔について興味をもったという回答も多く、企画者のねらいが大きく達成できたことがわかった。
今後は、かるたを用いたアウトリーチを推進するとともに、新しいアウトリーチプログラムの開発に努めていく予定である。さらに多くの人々に計画への理解だけではなく、計画に参画してもらえるような、研究者だけではない『国民参画型の新しい惑星科学探査』を目指したい。
参考文献
1) Haruyama、J.,et al., Geophys. Res. Lett. 36, L21206, 2009.
2) 新井真由美, et al., 第57回月宇宙科学技術連合講演会, 2013.
1.月の縦孔・地下空洞探査計画『UZUME計画』
2009年、春山ほかは、月周回衛星「かぐや」(SELENE)の観測で、人類史上初めて月に3つの巨大な縦孔(直径:約50m~100m)を発見した1)。これらの縦孔の底には、巨大な地下空洞が横方向に広がっていると推測され、富士山や済州島、ハワイなどにある溶岩の流れたあとに残った空洞(溶岩チューブ)の一部が陥没してできた天窓と同様だと考えられている。現在、私たちは月惑星の縦孔・地下空洞探査に関する研究を行っている。この探査計画はUnprecedented Zipangu Underworld of the Moon (Mars) Exploration (古今未曾有の日本の月(火星)地下世界探査))の頭文字をとり、UZUME計画と命名されている。
月惑星の縦孔は、主に次の4つの科学的意義がある場所である。
1) 月-地球系への物質供給の把握:月は過去に巨大衝突を経験したが、月の縦孔・地下空洞は、その衝突の記録を新鮮な状態で残し、縦孔露頭や地下空洞内の調査で水の供給源や過去の太陽活動の調査ができる場所である。
2)月の内部構造の把握:地下空洞内の放射線物質や月の核やマントル構造、溶融核発現の有無に関する調査ができる場所である。
3)月面有人拠点の建設地候補:月の縦孔・地下空洞は月面とは異なり、放射線や紫外線を遮り、かつ隕石や飛散物の衝突の危険性も低い。また、温度も安定しており、高い密封性、堅固な床面、無塵空間である等、人類が将来、月に有人活動拠点を建設する場合に、月面より安全で有利な場所である。
4) 地球外生命探査:縦孔に続く地下空洞は、宇宙放射線や紫外線のあたらない環境であり、生命が発生し、独自に生き延び、進化している可能性も考えられる。主に、火星における地下水・生命探査を行うにあたり適した場所である。
上記の達成に向けて、日本が得意とするロボット・宇宙工学などの優れた技術を最大限に活用し、更なる工学の発展に努めたい。
2.「かるた」を用いたUZUME計画のアウトリーチ
私たちは、UZUME計画の実現にはアウトリーチが重要であると考え、次の3点を意識し、アウトリーチの企画を行っている。
1) UZUME計画への理解:一般の人々から共感を得、探査の意義・内容を理解してもらうために、わかりやすく伝えること。
2) 科学的な興味喚起:とくに、若者に最先端の科学に対して興味や関心をもってもらうための、きっかけ作りや場の演出。
3) 一般の方々を参画させるしかけ作り:アウトリーチを受けた人々をその場で終わらせない。その人から発信し、周囲に波及させるための、印象に残る要素を盛り込むこと。
多くの人々は、はじめは本探査に無関心であろう。そのため、UZUME計画への関心と感動を創出するために、探査の面白い点・ワクワクする点・探査を応援したいと思わせるしかけ等、感動の要素を意図的に盛り込む必要があると考えた2)。そこで、UZUME計画のみならず月についてよく知らない子供から大人も対象に、無理なく本研究に興味を抱いてもらえるサイエンスコミュニケーションのツールの1つとして「かるた」が有効ではないかと考え、「月の縦孔探査かるた」を開発した。かるたを用いる利点は次の3点である。
1) 読札:短い言葉ではあるが、計画の特徴を凝縮した文章で表現することができる。
2) 絵札:読札に適合した選ばれた1枚の写真やイラストを絵札にすることで、「百聞は一見にしかず」の効果を発揮し、ビジュアルを通して研究に興味をもってもらうきっかけを与えることができる。
3) かるた体験:計画への理解が深まった体験者から、本計画に対する率直なコメントを得ることができる。
かるたは、2014年の宇宙航空研究開発機構相模原キャンパスの特別公開および宇宙博2014で試作案をポスター展示した。かるた試作品は同年10月に完成した。同年11月、12月、2015年1月、2月には、神奈川県青少年センター主催の子どもサイエンスフェスティバル各4市の大会に「かるた大会~月のあなを探査しよう」として出展した。アンケート結果から、満足度も高く、月の縦孔について興味をもったという回答も多く、企画者のねらいが大きく達成できたことがわかった。
今後は、かるたを用いたアウトリーチを推進するとともに、新しいアウトリーチプログラムの開発に努めていく予定である。さらに多くの人々に計画への理解だけではなく、計画に参画してもらえるような、研究者だけではない『国民参画型の新しい惑星科学探査』を目指したい。
参考文献
1) Haruyama、J.,et al., Geophys. Res. Lett. 36, L21206, 2009.
2) 新井真由美, et al., 第57回月宇宙科学技術連合講演会, 2013.