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[SSS29-01] 炭質物を用いた断層における摩擦発熱指標の構築
キーワード:摩擦発熱, ビトリナイト反射率, ラマンスペクトル, 炭質物, 摩擦実験
断層における摩擦発熱指標の構築は,地震性すべりの地質学的証拠を見出すとともに,得られた温度情報をもとに地震時の摩擦抵抗を求める上で重要である.ビトリナイト反射率 (以下,Ro) と炭質物ラマンスペクトルは,地質体の被った最高温度を見積もるための地質温度計として利用されてきた.これらは,温度上昇によって炭質物が熟成するのに伴い,Roが増加し,炭質物ラマンスペクトルが系統的に変化することを用いている.本研究では,Roと炭質物ラマンスペクトルが断層における摩擦発熱指標に成り得るのか探るべく,南海トラフ巨大分岐断層から採取した粘土質ガウジ試料95 wt%に炭質物5 wt%を混ぜ,摩擦実験を行なった.実験は,窒素ガス充填下で無水・含水条件のもと,高速 (1.3 m/s) 摩擦実験 (実験時間約9秒) と低速 (0.15 mm/s) 摩擦実験 (実験時間約32分) を行なった.実験後,微細構造観察,2次元有限要素法によるガウジ内温度分布の算出,Ro測定,炭質物のサイズ測定,ラマン分光分析を行なった.その結果,約9秒間の高速すべりにおいて炭質物が温度上昇と粉砕の影響を受けると,Roと炭質物ラマンスペクトルは明瞭に変化することが明らかとなった.一方で,低速すべり時の非常に小さな温度上昇と粉砕の効果では,Roと炭質物ラマンスペクトルは変化しなかった.つまり,断層におけるRoと炭質物ラマンスペクトル変化は,摩擦発熱の指標と成り得る.一方で,従来用いられてきたRoや炭質物ラマンスペクトルの地質温度計は,断層における摩擦発熱温度計としては直接利用できないことが明らかとなった.断層における摩擦発熱温度計を構築するためには,高速すべり時の急速加熱と粉砕の効果を考慮した新たなカイネティクスモデルの構築が必要である.