日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT05] New phase of GPS/GNSS application as an integrated earth observation system

2015年5月27日(水) 09:00 〜 10:45 203 (2F)

コンビーナ:*小司 禎教(気象研究所気象衛星・観測システム研究部第2研究室)、津田 敏隆(京都大学生存圏研究所)、加藤 照之(東京大学地震研究所)、瀬古 弘(気象研究所)、佐藤 一敏(独立行政法人 宇宙航空研究開発機構)、座長:小司 禎教(気象研究所気象衛星・観測システム研究部第2研究室)

10:15 〜 10:30

[MTT05-05] 直接波と反射波の干渉を利用したGNSS積雪計:2014年2月の山梨豪雪の観測

*日置 幸介1小司 禎教2吉本 浩一3 (1.北海道大学・院理・自然史、2.気象研究所、3.気象庁)

キーワード:GNSS, GPS, 積雪深度, マルチパス, 干渉, 2014山梨豪雪

GNSSの「マルチパス」を利用した観測によってアンテナ周囲の積雪深度を求めた事例について報告する。GNSS衛星からの直接波と地面等で反射した電波の干渉によって生じる様々な現象を総称してマルチパスと呼ぶ。衛星の公転周期である恒星日に同期した繰り返し測位誤差などが良く知られるが、昨今では、マルチパスを積極的に利用して、土壌水分、植生、海面高等のアンテナ周辺の様々な状況を推定する手法が開拓されつつある。Larson et al. (2009)は、GNSS受信信号のSN比の変動から、積雪に伴う見かけ上のアンテナ高の変動を求める手法を提唱した。一方Ozeki & Heki (2012)は、L1とL2の搬送波位相の差(L4)の振動からも同様に積雪深度を推定できることを示した。Ozeki & Heki (2012)は、国土地理院の連続観測網GEONETの北海道新篠津村のGNSS点のデータを用いて、L4とS N比の双方を用いて求めた積雪深度を近傍のアメダス積雪計と比較することにより、それぞれ約6 cmおよび約4 cmの確度があることを示した。
本研究では山梨県北杜市小淵沢町にあるGEONET点950263の2014年一月から三月にかけてのデータを用い、複数の衛星が北東の地平線に沈む直前のSN比のマルチパスによる変動を解析した。北杜市では2014年二月の大雪で交通の遮断等による物流や農業施設への被害等が発生している。同観測点は小学校校庭の南西部に設置され、北東方向は平坦なグランドであるため、直接波と反射波の干渉の観測に条件が良い。衛星はGPS衛星の12, 20, 32の三衛星を用い、それぞれが北西に沈む前約二時間のSN比データを用いた。観測時間窓は毎日約4分ずつ早くして、衛星の方向を毎日同じに保った。無積雪時のマルチパスによるGPS 12番衛星のL2のSN比変化の周波数は4.6 mHz程度であるが、これが本来のGNSSアンテナの高さである約6 mに相当する。その周波数は雪が深くなるに従って低くなり、1 m程度の積雪でL2のSN比変動周波数のピークは約0.75 mHz下方にシフトする。様々なアンテナ高で理論的に予測されるSN比変化の周波数を計算してあらかじめ校正曲線を作っておき、日々の周波数ピーク値から積雪深度の推移を求めた。
本研究の結果、小淵沢GNSS点で二月の七日と十四日の二回にわたる大雪で積雪深度が約1 mに達したこと、その後徐々に融雪により深度がゆっくり小さくなる様子が再現できた。大雪直後は時折データの乱れが見られるが、現地は誰でも自由に出入りできる学校の構内であり、電波が反射する部分の雪面がしばしば人為的に乱されるのだろう。積雪が1 mを超えた時点からは、人為的な擾乱が無くなったためかデータは綺麗になる。アメダスには、例年積雪があまりない地点では積雪計が装備されていないことが多いが、GEONET点を利用することで、それらを補完する積雪データが得られることが期待される。

文献
Ozeki, M. and K. Heki, J. Geodesy, 86, 209-219, doi:10.1007/s00190-011-0511-x, 2012.
Larson, K. et al., GRL, 36, L17502, doi:10.1029/2009GL039430, 2009