15:45 〜 15:48
[G02-P01] 防災実務者を対象とした人材育成講座の構築 -受講生・修了生を対象としたアンケート調査を踏まえて-
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:人材育成, 自然災害科学, 防災
1.はじめに
静岡県では1996年から防災士養成講座を実施し,2013年度時点で静岡県ふじのくに防災士(平成22年度に「静岡県防災士」を改名)を1806名輩出している.
同講座では講義を単に聴く座学が中心で「広く浅い」基礎知識の習得にとどまる.防災実務の現場では,個々の状況にあわせた科学的・技術的知見の応用力が要求されるが,その育成の場は多くなかった.そこで,静岡大学は静岡県と連携して2010年度より,文部科学省の科学技術戦略推進費(当時)による地域再生人材創出拠点の形成事業「災害科学的基礎を持った防災実務者の養成」として「ふじのくに防災フェロー養成講座」を開始した.
2.講座の概要・実施状況
この講座は「自治体や企業等で災害・防災に関する実務に従事しており,ふじのくに防災士程度の基礎知識を有する者」を対象としている.災害発生後の危機管理ノウハウにとどまらず,災害の事前予防を目指して,地域の特性を理解し,科学的専門知識とその情報を読み解ける実践的応用力の習得を目標とする.
原則1科目1日の形で開講される22科目の「講義・実習」と,担当教員の指導により個別の研究テーマの結果をとりまとめる「修了研修」をカリキュラムの主軸とし,1~2年かけて実施する.講座修了は,(1)10科目以上の講義・実習の履修,(2)学会等の専門的な研究発表の場で修了研修内容の発表,(3)講座全体のゼミである地域防災セミナーに1回以上出席,の3条件を満たすことで判定する.
募集定員は10名程度とし,入学料及び受講料は無料としている.講義・実習は,話を聞くだけの形式ではなく,計算・作図等数値や物理的・質的データを用いた作業を伴い,毎回課題提出をもとめた.修了研修では,受講生と担当教員のディスカッションにより,特定の研究テーマを決めて取り組む.研究テーマは,受講生の居住地や実務に関連したものが多くなっている.
3.応募者の傾向
2014年12月末現在で,4期生までの募集・選考が終了している.1期は53名,2期は43名,3期は35名,4期は34名の応募があり,それぞれ22名,20名,21名,20名を受講生として受け入れた.応募者の年齢は40代を中心に20代から60代以上まで幅広い年齢層である.居住地は,静岡大学静岡キャンパスが位置する静岡県中部が最も多い(静岡大学静岡キャンパスには実施主体があり,講義・実習を主に行う).県内からの応募者が大多数を占める一方で,東海・関東・東北と県外からの応募が4期とも続いている.
所属をみると,約3分の1が行政関係,半数が民間企業となっている.ただし,本講座のメインターゲットとして受け入れを目指している市町村職員の応募がそれほど多くないのが課題である.
なお,2012年3月末に15名,2013年3月末に17名,2014年3月末に12名が本講座を修了し,静岡県知事認証「ふじのくに防災フェロー」を授与されている.
4.アンケート調査
受講生を対象としたアンケートを受講開始から約1年経過した時点で実施している.これまで,講座全体の満足度に関する設問では「期待はずれ」という回答はほとんどなく,全員が期待通りか期待以上という回答だった.講座全体としては,高い評価が得られている.
修了生を対象としたアンケート調査も行っている.修了からおよそ1年が経過したところで,修了後1年間の取り組みや変化などを本人と上司に対して調査している.
以上について,詳細を当日報告する.
5.おわりに
本講座の実施により,修了者自身とその周辺に様々な効果を生んでいることが確認された.これは本講座が意図した,「中核的人材の育成により関連する多くの人に波及効果を期待する」ことが実現しつつあると言っても良い.
2014年度には,修了者らと本学の連携を強化することなどを目的に「静岡大学教育研究支援員」制度を整備した.すでに修了生4名などが支援員に就任し,受講生への助言や,本学の全学共通科目「地震防災」等の講義担当にあたっている.また,2012年度から静岡県がはじめた「地域防災人材バンク」へも修了生が登録して,地域での活躍の機会も今後増えていくことが期待される.
参照文献
横幕早季・牛山素行・大森康智・増田俊明(2013),防災実務者を対象とした人材育成講座の構築 ~1・2期修了生を対象としたアンケート調査を踏まえて~,日本災害情報学会第15回研究発表大会予稿集,pp.40-43.
横幕早季・牛山素行・大森康智・増田俊明(2014),防災実務者を対象とした人材育成講座の構築~修了1 年後アンケート結果を踏まえて~,日本災害情報学会第16 回研究発表大会予稿集,pp.182-183
静岡県では1996年から防災士養成講座を実施し,2013年度時点で静岡県ふじのくに防災士(平成22年度に「静岡県防災士」を改名)を1806名輩出している.
同講座では講義を単に聴く座学が中心で「広く浅い」基礎知識の習得にとどまる.防災実務の現場では,個々の状況にあわせた科学的・技術的知見の応用力が要求されるが,その育成の場は多くなかった.そこで,静岡大学は静岡県と連携して2010年度より,文部科学省の科学技術戦略推進費(当時)による地域再生人材創出拠点の形成事業「災害科学的基礎を持った防災実務者の養成」として「ふじのくに防災フェロー養成講座」を開始した.
2.講座の概要・実施状況
この講座は「自治体や企業等で災害・防災に関する実務に従事しており,ふじのくに防災士程度の基礎知識を有する者」を対象としている.災害発生後の危機管理ノウハウにとどまらず,災害の事前予防を目指して,地域の特性を理解し,科学的専門知識とその情報を読み解ける実践的応用力の習得を目標とする.
原則1科目1日の形で開講される22科目の「講義・実習」と,担当教員の指導により個別の研究テーマの結果をとりまとめる「修了研修」をカリキュラムの主軸とし,1~2年かけて実施する.講座修了は,(1)10科目以上の講義・実習の履修,(2)学会等の専門的な研究発表の場で修了研修内容の発表,(3)講座全体のゼミである地域防災セミナーに1回以上出席,の3条件を満たすことで判定する.
募集定員は10名程度とし,入学料及び受講料は無料としている.講義・実習は,話を聞くだけの形式ではなく,計算・作図等数値や物理的・質的データを用いた作業を伴い,毎回課題提出をもとめた.修了研修では,受講生と担当教員のディスカッションにより,特定の研究テーマを決めて取り組む.研究テーマは,受講生の居住地や実務に関連したものが多くなっている.
3.応募者の傾向
2014年12月末現在で,4期生までの募集・選考が終了している.1期は53名,2期は43名,3期は35名,4期は34名の応募があり,それぞれ22名,20名,21名,20名を受講生として受け入れた.応募者の年齢は40代を中心に20代から60代以上まで幅広い年齢層である.居住地は,静岡大学静岡キャンパスが位置する静岡県中部が最も多い(静岡大学静岡キャンパスには実施主体があり,講義・実習を主に行う).県内からの応募者が大多数を占める一方で,東海・関東・東北と県外からの応募が4期とも続いている.
所属をみると,約3分の1が行政関係,半数が民間企業となっている.ただし,本講座のメインターゲットとして受け入れを目指している市町村職員の応募がそれほど多くないのが課題である.
なお,2012年3月末に15名,2013年3月末に17名,2014年3月末に12名が本講座を修了し,静岡県知事認証「ふじのくに防災フェロー」を授与されている.
4.アンケート調査
受講生を対象としたアンケートを受講開始から約1年経過した時点で実施している.これまで,講座全体の満足度に関する設問では「期待はずれ」という回答はほとんどなく,全員が期待通りか期待以上という回答だった.講座全体としては,高い評価が得られている.
修了生を対象としたアンケート調査も行っている.修了からおよそ1年が経過したところで,修了後1年間の取り組みや変化などを本人と上司に対して調査している.
以上について,詳細を当日報告する.
5.おわりに
本講座の実施により,修了者自身とその周辺に様々な効果を生んでいることが確認された.これは本講座が意図した,「中核的人材の育成により関連する多くの人に波及効果を期待する」ことが実現しつつあると言っても良い.
2014年度には,修了者らと本学の連携を強化することなどを目的に「静岡大学教育研究支援員」制度を整備した.すでに修了生4名などが支援員に就任し,受講生への助言や,本学の全学共通科目「地震防災」等の講義担当にあたっている.また,2012年度から静岡県がはじめた「地域防災人材バンク」へも修了生が登録して,地域での活躍の機会も今後増えていくことが期待される.
参照文献
横幕早季・牛山素行・大森康智・増田俊明(2013),防災実務者を対象とした人材育成講座の構築 ~1・2期修了生を対象としたアンケート調査を踏まえて~,日本災害情報学会第15回研究発表大会予稿集,pp.40-43.
横幕早季・牛山素行・大森康智・増田俊明(2014),防災実務者を対象とした人材育成講座の構築~修了1 年後アンケート結果を踏まえて~,日本災害情報学会第16 回研究発表大会予稿集,pp.182-183