日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG32] 惑星大気圏・電磁圏

2015年5月26日(火) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*今村 剛(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)、関 華奈子(名古屋大学太陽地球環境研究所)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、高橋 芳幸(神戸大学大学院理学研究科)、深沢 圭一郎(京都大学学術情報メディアセンター)、中川 広務(東北大学 大学院理学研究科 地球物理学専攻太陽惑星空間物理学講座 惑星大気物理学分野)

18:15 〜 19:30

[PCG32-P07] 金星GCMへの硫酸雲の導入

*伊藤 一成1黒田 剛史1笠羽 康正1寺田 直樹1池田 恒平2高橋 正明3 (1.東北大学理学研究科、2.国立環境研究所、3.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:金星, 硫酸雲, GCM

金星は高度50-70kmを硫酸雲に覆われている。金星大気大循環モデル(Venus General Circulation Model)を用いた硫酸雲分布の再現の試みは、Lee et al. [2010]と我々のグループ(e.g. Kato et al. 2014)において凝縮・蒸発過程と沈降過程を取り入れた雲パラメタリゼーションによってなされてきた。ただし、これらにおいては化学過程が考慮されていないため、Knollenberg and Hunten [1980]で提唱されている金星硫酸雲サイクルは成り立たず、現実的なプロセスに基づく雲分布の再現を行ってはいない。
本研究は、化学過程をVGCMに導入することで、より現実的な金星硫酸雲の生成・消滅を再現し、雲の循環・分布について観測と定性的・定量的比較が可能な数値モデルの開発を行うものである。ベースとして使用したモデルは、Kato et al. [2014]同様、CCSR/NIES/FRCGC AGCMをもとに開発されたVGCM[Ikeda, 2011]であり、水平分解能T21(グリッド間隔:緯度経度双方で約5.6°)、鉛直52層(大気上端高度:約95km)に設定した。雲の生成・消滅は、各タイムステップで硫酸雲と硫酸蒸気の混合比の和が硫酸飽和蒸気混合比を上回った量がすべて雲になり、下回った場合全て蒸発し硫酸蒸気になる、と仮定して導入した。生成された雲の粒径は、現モデルにおいてはHaus and Arnold [2010]に基づく4種類のモード比(水平方向に一定、高度分布を仮定する)に配分される。すなわち、雲粒子径の拡大・縮小は本モデルでは再現しておらず、生成された粒子の移流を追跡するに留まる。また、本来結果として得られる雲分布は大気の熱放射・吸収の量・空間分布に影響を与えるが、現モデルにおいてはまだ「一定量・一定高度」(従来コードのまま)としている。硫酸に関わる大気成分の変遷および硫酸粒子の揮発に伴う化学過程として、現モデルでは以下の(1)–(4)を導入した。

SO2 +O+M → SO2 +M, (1)
SO3 +H2O+H2O → H2SO4 +H2O, (2)
H2SO4 +H2O → SO3 +H2O+H2O, (3)
SO3 +CO → SO2 +CO2, (4)

これらの化学過程を導入したVGCMを用いて、15金星日間の計算を行った結果、平衡状態に達した雲分布が得られた。この数値モデルにおいて、雲循環は、主に低緯度域の高度約65kmで化学反応によってSO2からの雲の生成、子午面循環によって移流、主に高緯度域で下降し高度50km付近で蒸発という過程で構成され、金星雲循環[Knollenberg and Hunten, 1980; Imamura and Hashimoto, 1998]を初めて現実的に再現した金星GCMとなった。また、雲分布においては、観測された雲頂高度の高緯度への減少を定性的に再現した。ただし、極域(75度以上)の光学的厚さが観測に比べ薄くなる傾向にある。また、(1)–(4)に関連する物質分布においては、H2O、SO2は高度60km以上で化学モデル[Krasnopolsky, 2012]の値より過大となったため、次のステップにおいてはH2O、SO2に関する化学反応も考慮する必要がある。
今後、放射・散乱過程を生成された雲分布と一致させる予定である。これにより、より現実的な温度場や循環の再現が期待される。2016年に開始されるであろうAkatsukiによる雲の大規模分布やその変動を定性的・定量的に考察可能となる重要なツールとしたい。