11:00 〜 11:15
[MIS33-08] 三陸リアス沿岸における海洋物理学研究
キーワード:海洋循環, 三陸, 海洋物理学, 東北マリンサイエンス
東日本大震災で甚大な被害を受けた三陸沿岸は、若布・昆布・牡蠣・帆立貝等の養殖業が盛んである。東京大学大気海洋研究所では震災後、三陸沿岸海洋の物理・化学環境と生物動態、海洋生態系の変動メカニズムを解明し、震災後の漁場の設定や資源量予測に資する科学的知見やデータを提供することを目指している(文部科学省海洋生態系研究開発拠点機能形成事業「東北マリンサイエンス拠点形成事業」)。
その中で、筆者らは岩手県大槌町に立地する臨海研究施設(東京大学大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センター)を拠点にして、沿岸海洋物理の研究を推進している。三陸の養殖は無給餌養殖を特徴とすることから、養殖域に栄養分を運ぶ沿岸流の実態(経路・量・組成など)を解明することは、海洋物理学のみならず、水産学の視点からも極めて重要な課題である。本報では、筆者らが進めてきたこれまでの研究展開と進捗状況を紹介する。
現在は、大槌湾・釜石湾・広田湾の3湾と、その沖合域(大陸棚から大陸棚斜面域)を重点的に、様々な観測を実施している。各湾内では小型調査船や漁船を用いて、ADCP (acoustic Doppler current profiler) による流速観測や、CTD (conductivity temperature depth) プロファイラーによる水温・塩分・深度観測を中心とする観測を実施している。また、沖合では大型船(学術研究船)を利用して、大規模な係留系設置も実施している。同時に、大槌湾(東西8 km、南北3 km)では常時モニタリング観測も実施中である(図参照)。モニタリングデータの多くは、インターネット上で(準)リアルタイム配信をしている(大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センターのウェブサイトにリンクを集約)。
これらの観測体制は震災を機に構築され、国内でもあまり類を見ない、時空間的に非常に高密なものである。そして、それらの成果として、三陸沿岸における海洋循環構造の実態解明が著しく進展した。例えば、典型的なリアス湾である大槌湾では、夏季を中心とする成層期には、顕著な3層構造の海洋循環となり、また、その循環の向きが数時間~数十時間のスケールで頻繁に反転していることなどが明らかになった。
さらに、筆者らは、学術的な課題と社会的な問題を同時に且つ相乗的に解決する方法も、地域社会とともに検討している。養殖施設や定置網など水産施設が多数敷設されている三陸沿岸では、地元の漁業協同組合やその組合員(漁師)の協力なくして観測は出来ない。一方、水産業の現場においては、基礎科学からのアプローチでしか解決できない問題が多く見られる。例えば、冒頭で述べたように、無給餌養殖域に栄養分を運ぶ沿岸流の実態(経路・量・組成など)を解明するためには、海洋物理学からのアプローチが不可欠である。そのため筆者らは、地元の漁業協同組合(員)に加えて、長年に渡って地域に密着した活動を行っている行政機関(岩手県水産部など)や研究機関(岩手県水産技術センター:旧水産試験場)などと定期的に情報交換をしたり、共同で観測計画を策定したりすることに重点を置いて活動している。また、海洋環境データをインターネット上でリアルタイム配信している試みについては、それを紹介するリーフレットを広く市民に配布する活動なども行っている。
その中で、筆者らは岩手県大槌町に立地する臨海研究施設(東京大学大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センター)を拠点にして、沿岸海洋物理の研究を推進している。三陸の養殖は無給餌養殖を特徴とすることから、養殖域に栄養分を運ぶ沿岸流の実態(経路・量・組成など)を解明することは、海洋物理学のみならず、水産学の視点からも極めて重要な課題である。本報では、筆者らが進めてきたこれまでの研究展開と進捗状況を紹介する。
現在は、大槌湾・釜石湾・広田湾の3湾と、その沖合域(大陸棚から大陸棚斜面域)を重点的に、様々な観測を実施している。各湾内では小型調査船や漁船を用いて、ADCP (acoustic Doppler current profiler) による流速観測や、CTD (conductivity temperature depth) プロファイラーによる水温・塩分・深度観測を中心とする観測を実施している。また、沖合では大型船(学術研究船)を利用して、大規模な係留系設置も実施している。同時に、大槌湾(東西8 km、南北3 km)では常時モニタリング観測も実施中である(図参照)。モニタリングデータの多くは、インターネット上で(準)リアルタイム配信をしている(大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センターのウェブサイトにリンクを集約)。
これらの観測体制は震災を機に構築され、国内でもあまり類を見ない、時空間的に非常に高密なものである。そして、それらの成果として、三陸沿岸における海洋循環構造の実態解明が著しく進展した。例えば、典型的なリアス湾である大槌湾では、夏季を中心とする成層期には、顕著な3層構造の海洋循環となり、また、その循環の向きが数時間~数十時間のスケールで頻繁に反転していることなどが明らかになった。
さらに、筆者らは、学術的な課題と社会的な問題を同時に且つ相乗的に解決する方法も、地域社会とともに検討している。養殖施設や定置網など水産施設が多数敷設されている三陸沿岸では、地元の漁業協同組合やその組合員(漁師)の協力なくして観測は出来ない。一方、水産業の現場においては、基礎科学からのアプローチでしか解決できない問題が多く見られる。例えば、冒頭で述べたように、無給餌養殖域に栄養分を運ぶ沿岸流の実態(経路・量・組成など)を解明するためには、海洋物理学からのアプローチが不可欠である。そのため筆者らは、地元の漁業協同組合(員)に加えて、長年に渡って地域に密着した活動を行っている行政機関(岩手県水産部など)や研究機関(岩手県水産技術センター:旧水産試験場)などと定期的に情報交換をしたり、共同で観測計画を策定したりすることに重点を置いて活動している。また、海洋環境データをインターネット上でリアルタイム配信している試みについては、それを紹介するリーフレットを広く市民に配布する活動なども行っている。