日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

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[U-06] 宇宙・太陽から地球表層までのシームレスな科学の新展開

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 105 (1F)

コンビーナ:*松見 豊(名古屋大学太陽地球環境研究所)、草野 完也(名古屋大学太陽地球環境研究所)、石坂 丞二(名古屋大学地球水循環研究センター)、坪木 和久(名古屋大学・地球水循環研究センター)、榎並 正樹(名古屋大学 年代測定総合研究センター)、座長:水野 亮(名古屋大学太陽地球環境研究所)、塩川 和夫(名古屋大学太陽地球環境研究所)

11:00 〜 11:20

[U06-07] 気候変動下の陸域生態系応答検出に関するシームレスな科学の展開

*三枝 信子1 (1.国立環境研究所)

キーワード:炭素循環, 地球温暖化, 陸域生態系, 地球規模モニタリング

人為的な温室効果ガスの放出、中でも二酸化炭素(CO2)やメタンの放出が引き起こす地球温暖化は、大気・海洋・陸域の炭素循環や生態系にさまざまな時間スケールで重要な影響を与える。ここで生態系が温暖化に対し地球規模で影響力のある負のフィードバック機構をもつとしたら、生態系が気候変化を緩和し安定化させる機能をもつという意味であり、それは人類が生態系から受ける恩恵と捉えることができる。一方、正のフィードバック機構は、生態系の反応が温暖化をさらに加速することを意味し、それは早期に発見し、影響を評価し、対策を施すべき対象である。負のフィードバックには、光合成の原料である大気中CO2が増えることにより植物の光合成が促進される施肥効果、気温上昇や植物の生育期間伸長による生産量や繁殖成功度の上昇、正のフィードバックには、気温上昇による凍土や湿地、泥炭地などにおける温室効果ガス発生の加速などがある。

生態系の応答を大陸スケール、全球スケールで捉えるには、これまで主にリモートセンシングや生態系プロセスモデルを用いた研究が行われ、将来予測にも重要な示唆が与えられてきた。今後は、それらの予測や示唆を実測によって検証すると同時に、気候変化に伴い今後起こるかもしれない生態系の変化を検出し、変化の影響を定量的に評価する取組を進める必要がある。そのために、温暖化に伴う生態系の変化を地球規模で監視(モニタリング)し、その変化が多方面に及ぼす影響を総合的に観測するしくみが必要である。ただし、気候-生態系フィードバックには極めて多くのプロセスが関与しているため、正のフィードバックが起こり始める地域や要因を早期に検出するには、生態系の生産力、分解、栄養塩のサイクル、生物の侵入、種組成の変化、より長期的に起こる植生帯の遷移、それに係わる植物・動物・微生物の役割といった多岐にわたるプロセスを長期的に観測する多大な努力が必要となる。

本講演では、これまで陸域生態系における地上観測や衛星観測のコミュニティが長期モニタリングに基づいて実施してきた研究や、温暖化影響評価の研究の成果と課題を紹介すると同時に、生態系変動とそれに伴う炭素循環等の変動を大陸スケールでとらえるための国内外の取組、特に米国国家生態学観測ネットワーク(NEON: The US National Ecological Observatory Network; http://www.neoninc.org/)や欧州の統合炭素観測システム(ICOS: Integrated Carbon Observation System; http://www.icos-infrastructure.eu/)の現状を紹介する。さらに、将来の陸域生態系応答の検出に関わる科学の発展のため、長期的で一貫性のある生態系モニタリングを構築・強化する上での課題について議論する。