日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS31] 地殻変動

2015年5月25日(月) 16:15 〜 18:00 304 (3F)

コンビーナ:*太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、村瀬 雅之(日本大学文理学部地球システム科学科)、座長:水藤 尚(国土交通省国土地理院)、加藤 照之(東京大学地震研究所)

17:18 〜 17:21

[SSS31-P02] GNSSデータから推定された琉球弧南西部の地殻変動

ポスター講演3分口頭発表枠

*小池 俊貴1西村 卓也2宮崎 真一1 (1.京都大学大学院理学研究科、2.京都大学防災研究所)

キーワード:琉球弧, GNSS, 剛体回転

1.はじめに
琉球弧南西部(八重山地方・宮古島地方)は年間12.5cmという世界最速のプレート沈み込み速度や背弧側に位置する沖縄トラフの背弧拡大など特殊なテクトニクスの下にある.
同地域ではプレート収束速度が速いわりに大地震の発生が少なく,よく知られている大地震は1771年の八重山地震(MW 8.0程度)のみである.その一方で,ゆっくりとした地震性・非地震性の変動現象が数多く報告されており,Heki and Kataoka (2008) では半年に一度のスロースリップイベント(SSE)が報告されている.SSEは数日から数年の長いタイムスケールで断層すべりが続く現象である.SSEを引き起こす断層は西表島直下のプレート境界面上に位置していると推定されている.
同地域での数年間以上の平均的な地殻変動はNishimura et al. (2004) やNakamura (2004) などの先行研究により剛体回転運動で表されることが提案されている.この2つの研究では琉球地方を3つのブロックで分割しており,それぞれが独立に運動しているとしているが,ブロックの分割領域は両研究で異なる.Nishimura et al. (2004) は八重山・宮古島地方で1つのブロックとして運動していると推定している.一方,Nakamura (2004)ではAICを用いた評価を行い八重山地方と宮古島地方は異なるブロックとして運動していると結論付けている.
先述のような地殻変動は主に国土地理院のGNSS連続観測網(GEONET)による観測結果を用いて研究されている.しかし同地域は島嶼部であり観測点が少ないため,地震・SSE・固着など剛体回転以外の内部変形についての議論が十分にできていないという問題点がある.

2.観測データについて
 本研究では先述の琉球弧南西部を対象地域として,従来の研究で用いられているGEONETの観測点に我々が2010年から設置した八重山地方の4点(西表島内の舟浮・大原と小浜島・黒島)と海上保安庁提供の宮古島の1点を加えて計13点のGNSSデータを用いた.
 まずGNSS解析を行って取得したデータから日座標値の推定を行った.GNSS解析には,GIPSY6.2の精密単独測位法(PPP)を用いた.また,観測結果には人為的なオフセットや気象条件などによる誤差が含まれているため,地殻変動を見やすくするために移動平均などの誤差を軽減するための処理を行った.
 今回我々が設置した観測点の2010年から2013年のデータを見ると,データが欠測している時期もあったが全点で4回のSSEと見られる変動パターンが観測された.
 そこで今回は4点のデータのそろっている2010.24年から2012.69年の期間で,Nishimura et al. (2004) の剛体回転モデルから計算した結果と観測結果の水平変位ベクトルの比較を行った.

3.結果と解釈
 比較の結果,Nishimura et al.(2004)のモデルでは現在の地殻変動を説明できず,観測値の変動方向が計算値と比較して反時計回りになっていることがわかった.これは先行研究の期間から現在までの間に剛体回転運動が時間変化したためと考えられる.観測された水平変位ベクトルを見ると観測点の位置が西になるに従って変動方向は反時計回りに回転し,変動量が増大する傾向が見て取れる.そのため,この地域の運動はある程度剛体回転で説明することができると考えて剛体回転運動のオイラー極と回転速度の推定を行った.その結果,水平変位は剛体回転によって良く説明され,オイラー極は北緯29.095度・東経128.089度,回転速度は6.675rad/Myrに決定された.また,剛体回転運動とは独立である観測点間の基線長変化についてもこの地域の内部変形を理解するために計算を行った.これらの結果及び考察の詳細については学会で詳しく発表する予定である.

4.まとめ
 年間12.5cmと非常に速いプレート収束速度が推定されておりSSEなどが観測されている琉球弧南西部において,計13点のGNSS観測結果を用いて解析を行った.同地域は島嶼部であるため観測点の密度が低かったが,八重山地方に新たに設置した4点と,従来は解析に用いられていない海上保安庁の宮古島の1点のデータを加え,地殻変動の詳細を明らかにした.
 同地域の2010.24年から2012.69年の水平変位と先行研究の剛体回転運動モデルから推定される変位との比較を行ったところ,明確な差異が見られた.そのため,今後は剛体回転でどこまで観測値を説明することができるのか,また剛体回転とは独立である観測点間の基線長変化がどの程度なのかについて解析を進めていく予定である.

謝辞
今回の解析には国土地理院のGEONETと海上保安庁海洋情報部の観測データを使用させていただきました.