日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT40] 地球惑星科学データ解析の新展開:データ駆動型アプローチ

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 201A (2F)

コンビーナ:*桑谷 立(東北大学大学院環境科学研究科)、駒井 武(東北大学大学院 環境科学研究所)、宮本 英昭(東京大学総合研究博物館)、小池 克明(京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻地殻環境工学講座)、堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、長尾 大道(東京大学地震研究所)、座長:上木 賢太(独立行政法人海洋研究開発機構地球内部物質循環研究分野)、桑谷 立(東北大学大学院環境科学研究科)

10:30 〜 10:45

[MTT40-13] 主成分分析を用いた東北日本仙岩地域のマグマ分化プロセスの解析

*上木 賢太1 (1.独立行政法人海洋研究開発機構)

キーワード:火山岩, 多変量解析, マグマ, 島弧, 東北日本

マントル・地殻の岩石の溶融の結果として生成されるマグマの主要、微量元素化学組成は、地下のソースの多様性や溶融プロセスを反映している。これらの化学組成データは多変量のデータであると同時に、上昇する過程での冷却・減圧過程でのマントル・地殻・地表と、組成も温度圧力も異なる3つの場のプロセスの積分値である (Annen et al., 2006など)。このような系を解くためには多変量解析が重要となる。
 マグマの化学組成は、固体地球に存在度が高く鉱物やマグマの構造を作る主体となる主要元素10元素と、地球上の存在度が小さく鉱物やマグマに微量にしか分配されない微量元素に大別できる。主要元素の挙動は場の温度・圧力・組成に支配され非線形であるため温度や圧力の指標となる一方 (Ueki and Iwamori, 2014など)、自由度が低く容易に上書きされてしまうため、温度圧力の推定には有用であるがプロセスの抽出には向いていない。微量元素は、主要元素と比較して組成空間の次元が広く自由度が高いこと、特定の相への溶解度が桁で変化することから (Blundy and Wood, 1994など)、一度何らかのプロセスで得られた特徴は上書きされづらく、特定の相やプロセスのトレーサーとして用いることが可能である (Depaolo, 1981; Pearce et al., 2005など)。本研究では、最も汎用的な多変量解析の手法である主成分分析を、沈み込み帯の火山岩の微量元素組成に適用することで、島弧火山岩の組成バリエーションをもたらす化学分化プロセスの議論を行う。
 解析には、東北日本沈み込み帯の火山フロント付近の第四紀火山群である仙岩地域から稠密にサンプリングした玄武岩からライオライトまでの組成幅の火山岩の一連のデータセットを用いた。火山群全体として組成幅をもたらすプロセスを考察するために、火山群全体の17の異なる火山から採取した、262サンプル14の微量元素からなるデータセットに主成分分析を適用した。
 主成分分析の結果、これらのサンプルと元素が作る組成バリエーションは3つの主成分で十分説明できることが分かった。サンプルごとの、微量元素から得られた主成分得点と主要元素含有量との関係および、元素ごとのメルト—鉱物間の分配係数に着目することで、主成分の解釈を行い、マグマ生成・分化プロセスを抽出した。その結果、島弧マグマの微量元素の組成幅は、地殻由来と解釈できる3成分、すなわちマントル由来メルトと地殻由来メルトのメルト同士の混合、深部でのかんらん石主体の結晶分化、そして浅所での斜長石主体の結晶分化の3プロセスで生成されることが示された。また、安山岩以上の珪長質なマグマの生成には、結晶分化ではなく、マグマ混合を示す主成分の寄与が重要であることが分かった。微量元素から得られた主成分は、サンプルごとの鉱物組成のデータとも良い相関を示し、地球化学データと岩石学データがカップリングしていることが示された。さらに、マグマ混合を示す主成分の空間分布が、地殻内部の地震波の低速度域 (Nakajima et al., 2001)や地温勾配の高い地域 (玉生, 1994)の分布と良い一致を示すことから、マグマ混合と地殻の溶融構造の密接な関与があることが分かった。