日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 雪氷圏地震学 - 地球表層環境変動の新指標 -

2015年5月25日(月) 11:00 〜 12:45 102A (1F)

コンビーナ:*金尾 政紀(国立極地研究所)、坪井 誠司(海洋研究開発機構地球情報研究センター)、豊国 源知(東北大学 大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター)、古本 宗充(名古屋大学大学院環境学研究科)、座長:坪井 誠司(海洋研究開発機構)、金尾 政紀(国立極地研究所)

11:45 〜 12:00

[SCG63-04] 海洋潮汐によりトリガーされる氷河地震

*伊藤 武男1古本 宗充1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:氷河地震, グリーンランド, 海洋潮汐

1. はじめに
 近年の地球温暖化によりグリーンランド氷河が融解することで氷河の流出量が増大し,海水面上昇が懸念されている.この氷河の流出に伴って,様々な現象が発見されており,その一つが氷河地震である.この氷河地震は河口付近の流動する氷河の底面と岩盤の間の急激なすべり速度の変化であると考えられており,近年では,氷河地震の発生頻度は上昇傾向にあることから,急激な気候の変化を反映している可能性がある.しかしながら,これらの氷河地震の発生頻度の変化は氷河の流出のメカニズムとどの様に関連しているのかは未だ完全には明らかになっていない.

2.氷河地震と海洋潮汐に伴う摩擦力と係数の変化
 Tsai and Ekstrom (2007)は氷河地震で放射された地震波を詳細に調べ, グリーンランドで発生する氷河地震のほとんどが表面波マグニチュード5程度であることを報告している.また,表面波マグニチュード5程度のテクトニックな地震であれば,数秒程度の震源の破壊継続時間であるにも関わらず,氷河地震の震源時間関数は50秒程度と非常に長いことから、ゆっくりとしたすべりの現象であることがわかる.このような特徴から氷河底面と岩盤との間の摩擦係数の変化について考察をおこなった。その結果、氷河地震の発生時の摩擦係数の変化は1.6×10-4程度であり、氷河地震は非常に小さな摂動がきっかけになって発生している可能性がある.
 一方、海洋潮汐による海面の周期的な上下運動により、氷河と岩盤の間に海水が流入に伴う間隙水圧の増圧によって生じる摩擦力の変化についての考察を行う.その結果、氷河の厚さと海水面の変化をそれぞれ700mと1.5mと仮定すると海水が流入した際の摩擦力の変化と定常状態の実効的な摩擦力の比は2.1×10-3程度となる.この値は氷河地震が発生した際に生じる摩擦係数の変化の割合と同じオーダーであるため,海洋潮汐により実効的な摩擦力を変化させることで,見かけ上の摩擦係数の変化として氷河地震をトリガーすることができる可能性があることを示している.

3.海洋潮汐がトリガーとなる氷河地震
 海洋潮汐によりトリガーされた氷河地震を統計的に調べるために,氷河地震が発生した場所と時間の海水面高を抽出し,氷河地震と海洋潮汐との関係を調べた.その結果,海水面高が低い場合には氷河地震は抑制され,海水面高が高い場合には氷河地震は促進されており、海洋潮汐の影響を受けた氷河地震は全体の約3%に相当している事が分かった。しかしながら,これらの影響は非常に小さいが,氷河地震と海面上昇から推定される,摩擦状況の変化からは妥当な値だと結論づけることができる.