日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW26] 水循環・水環境

2015年5月27日(水) 09:00 〜 10:45 301A (3F)

コンビーナ:*内田 洋平((独)産業技術総合研究所地質調査総合センター)、樋口 篤志(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、長尾 誠也(金沢大学環日本海域環境研究センター)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、座長:内田 洋平((独)産業技術総合研究所地質調査総合センター)、長尾 誠也(金沢大学環日本海域環境研究センター)、樋口 篤志(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、林 武司(秋田大学教育文化学部)

09:00 〜 09:15

[AHW26-01] CMIP5にもとづく瀬戸内海のダウンスケーリング計算による鉛直水温分布構造の将来変化

森 信人1、*今井 優樹2二宮 順一3安田 誠宏1間瀬 肇1 (1.京都大学防災研究所、2.京都大学大学院工学研究科、3.金沢大学理工研究域)

キーワード:瀬戸内海, 鉛直水温分布, ROMS, CMIP5, 雲量, 短波放射

1.研究目的
近年,地球温暖化の海岸・海洋への将来変化予測及びその影響評価が進められている.2013年9月にはIPCC WGIによる第5次報告書(IPCC-AR5 WGI:以下AR5と略記)が発表され,気候変動の予測について大きな進歩が見られた.一方,海岸・海洋については,全球または総観規模での影響評価が多く,日本やこれ以下のスケールにおける影響については,AR5と一貫性を保った評価はなされていない.そこで,本研究ではAR5で用いられたCoupled Model Intercomparison Project Phase 5 (CMIP5)を対象に,全球及び日本を含む領域スケールにおける海面近傍の環境場の解析を実施した.得られた西日本周辺の環境場の将来変化を外力として,領域海洋モデル(ROMS)を用いて瀬戸内海の長期積分を行い,瀬戸内海の環境場について将来予測を行った.
2.CMIP5の解析
CMIP5の解析は,現在気候(historical)と将来気候の温暖化シナリオRepresentative Concentration Pathway 4.5W/m2(RCP4.5)とRCP8.5について行い,対象期間は今世紀末,対象領域は全球や西日本(東経125~136度,北緯27~35度)を含む10海域とした.
SSTの空間分布の月平均変化から,全ての海域で顕著な昇温傾向が見られた.特に,太平洋北西部や太平洋の赤道付近では,将来気候で4度以上の昇温があった.西日本におけるSSTの月平均変化より,月平均変化の最大は6月の3.5度で,最小は1月の2.8度であった.これは全球年平均の将来変化の2.7度よりも大きく,西日本におけるSSTの将来変化は比較的大きいといえる.一方,各変数の年平均将来変化について,SSTの昇温は前報の様に全球よりも西日本の方が顕著であった.雲量に関して,全球ではほとんど将来変化が見られないのに対し,西日本では減少傾向にあった.短波放射については,全球において減少傾向にあるのに対し,西日本では増加傾向にあった.
3.瀬戸内海における鉛直水温分布構造の将来変化予測
2093年(将来気候)を対象として,ROMSを用いた瀬戸内海の将来計算を行い,2004年(現在気候)の同様の計算結果(田中ら,2013)と比較した.地形データは東西約4.5度×南北約2.5度(414×185)の水平格子解像度1kmである.側方条件については,JCOPE2(2004年)をベースとし,MIROC5の鉛直水温分布構造の将来変化とCMIP5のSST将来変化を考慮した.気象条件については気象庁メソ数値予報GPVデータ(2004年)を用いた.将来気候のデータは地上10m風速,降雨量,気温,海面更正気圧,雲量,短波放射をCMIP5の解析結果より作成し,1時間毎に与えた.
将来気候における瀬戸内海の最も大きな変化は熱環境であり,SSTの昇温傾向は夏季の方が大きく表れ,1.6度前後の昇温が見られた.さらに,太平洋側の比較的水深の浅い海域(例えば紀淡海峡沖)と,瀬戸内海中央に位置する比較的水深の浅い海域(例えば燧灘)の鉛直水温分布の将来変化を比較した.紀淡海峡沖と燧灘の8月における鉛直水温分布は,SSTの昇温傾向と同様に,鉛直水温分布においても紀淡海峡沖と燧灘共に全層に渡って昇温傾向が見られた.一方,水深の深い紀淡海峡沖より水深の浅い燧灘では,表層付近において気温上昇に従った強い昇温傾向が表れていた.
4.結論
IPCC-AR5でまとめられた,CMIP5データの解析をすることにより,全球及び日本周辺における月平均気候値の将来変化を求めた.SSTについては,どの海域でも1~4度程度の昇温が見られ,海域によって昇温の程度が大きく異なる.特に,西日本では年平均で3度程度の昇温が見られ,全球平均の2.7度よりも大きい.また,短波放射の将来変化は,全球平均では減少しているのに対し,西日本では増加する.さらに,雲量の将来変化については,全球平均でほぼ0であるのに対し,西日本では有意な減少(約5%)傾向があることがわかった.短波放射については,全球において減少傾向にあるのに対し,西日本においては増加傾向であった.
CMIP5の解析結果を境界条件に用いた瀬戸内海のダウンスケール計算では,境界条件である西日本の年平均将来変化が+3.0度であるのに対し,瀬戸内海の年平均では約+1.6度の変化が予想される.また,鉛直水温分布の表層付近においては,水深の浅い燧灘では,水深の深い紀淡海峡沖より夏季に昇温傾向が強く見られた.総じて,SSTにおける夏季の昇温特性と,鉛直水温分布における瀬戸内海中央部の水深の浅い燧灘などの海域での,表層付近での夏季の比較的大きな昇温傾向を明らかにした.