日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候・生態系変動

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 301A (3F)

コンビーナ:*池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、野木 義史(国立極地研究所)、大島 慶一郎(北海道大学低温科学研究所)、座長:菅沼 悠介(国立極地研究所)

10:00 〜 10:15

[MIS21-15] 千年スケールの温暖化に対するウェッデル海における深層対流の発達が引き起こす全球的な溶存酸素の増加

*山本 彬友1阿部 彩子1重光 雅仁2岡 顕1山中 康裕2 (1.東京大学 大気海洋研究所、2.北海道大学大学院 地球環境科学研究院)

キーワード:溶存酸素, 地球温暖化, 深層対流, 熱塩循環

地球温暖化に伴う表層水温の上昇、成層化と深層循環の弱化は海水中の溶存酸素を全球的に減少させると考えられており、海洋物質循環や海洋生態系への影響が懸念されている(Keeling et al., 2010)。中程度の複雑さを持つ気候モデルを用いたこれまでの研究では溶存酸素の減少は1000年以上続き、最終的に20-50%程度減少すると示唆されている(Schmittner et al., 2008; Shaffer et al., 2009)。長期的な溶存酸素の減少は、深層循環の変動の寄与が大きいと考えられているが、GCMを用いて酸素の変動を1000年以上計算した研究がない為によく分かっていない。
 本研究では、気候モデルMIROCとオフライン海洋物質循環モデルを用いて理想的な温暖化実験(2xCO2, 4xCO2)を2000年積分し、溶存酸素と深層循環の変動について調べた。
 温暖化実験の初期500年では先行研究同様、溶存酸素は全球的に減少する。しかし500年以降、南大洋から酸素濃度が回復し始める。最終的には表層の酸素濃度が減少し、大西洋子午面循環(AMOC)が産業革命前より弱くなっているにもかかわらず、中深層の大部分で酸素の回復が起き、全球平均の酸素濃度は産業革命前の濃度より高くなった。この酸素回復はウェッデル海における深層対流の回復、発達によって駆動される。深層対流の発達により、酸素を多く含む表層水が深海に供給される為、南大洋の酸素濃度は急激に回復する。さらに、この酸素濃度の高い底層水が各海盆に輸送され、それまでの酸素減少を打ち消す為に全球的な酸素回復を引き起こした。本研究では、AMOCの強さやCO2濃度の違いに関わらず、この1000年スケールの酸素回復が共通的に見られた。
 ウェッデル海における深層対流については、先行研究と同様に表層の低塩化に伴う成層化により深層対流の停止が初期の500年に起きるが(de Lavergne et al., 2014)、その後対流は復活して産業革命前の状態よりも強くなる。これは500年以降、表層の低塩化は停滞する一方、中深層では低塩化が引き続き進むことで密度成層が再び不安定になるために対流が起きる。また水温上昇は深層でより大きく、密度成層が産業革命前の状態より不安定になるため、より広範囲で対流が起きると考えられる。
 本研究の結果から、ウェッデル海における深層対流の発達により、1000年スケールの溶存酸素回復が引き起こされる可能性が初めて示された。この酸素回復はこれまで報告されている100年スケールの全球的な溶存酸素減少と大きく異なる。今後は観測やモデルの比較を通じて深層対流発達の不確かさを見積もる必要がある。